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査読からみた若手医師の論文作成能力低下について[炉辺閑話]

No.5045 (2021年01月02日発行) P.22

大和田倫孝 (国際医療福祉大学病院病院長・産婦人科教授 )

登録日: 2020-12-30

最終更新日: 2021-01-02

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約15年にわたって複数の国内学会雑誌の査読委員を続けている。その中には若手医師の論文の登竜門になっている雑誌があり、投稿される論文は主として若手医師が筆頭著者になっている。最近論文を査読すると、構成力や表現力の低下が目立ち、全体的に論文作成能力の低下を感じるようになってきた。

以前の査読では、原著では研究成果の先進性を、症例報告では読者へのメッセージの独創性を中心にコメントしていたが、最近ではそれ以前の問題として、①投稿規定に則さない、②学術用語の誤った表記、文章が③「ら」抜き、④主語と述語の関係が不明瞭、⑤助詞の欠如、⑥能動態と受動態の区別があいまいなこと、などが少なからずみられる。結果としてこの点を含めてコメントしており、査読に一層多くの時間を費やしている。

投稿規定に則さない点については、投稿規定をまったく読んでいないと思われる論文がある。文献の記載では、著者は3名まであるいは全員とかの指示があるにもかかわらず、1名のみを記載している。また、英論文の引用では、著者名を「Ohwada M」とすべきところを「Michitaka Ohwada」のように記載し、雑誌名を「J Clin Oncol」とすべきところを「Journal of Clinical Oncology」のように省略形を用いないものもみられる。

日本語、英語にかかわらず、論文は最も規則を遵守して仕上げるべき書類と考えている。若手医師の不十分な段階での投稿は、筆頭著者(若手医師)の責任ではなく、直接の指導者である中堅医師の力不足による結果である。まずは、将来の医療界の担い手である中堅医師を、十分に教育する必要があろう。

学会発表や論文作成は、患者や家族に病状をわかりやすく説明するのにも役立つ。忙しい日々の診療の中で、徒らに時間をかけず、簡潔にまとめることは必須の技術である。多くの診療科の専門医試験でも、症例レポートの提出が義務づけられているのは、その練習の一環であろう。たとえ素晴らしい研究成果でも、表現力が劣っていると成果まで低評価されかねない。英文誌への投稿も大切ではあるが、その前に基礎となる日本語での文章作成を、若い頃からしっかりと教育することがさらに重要である。

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