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メラトニン製剤承認で変わる神経発達症診療─「睡眠」を聞き「睡眠から攻める」診療へ【まとめてみました】

No.5031 (2020年09月26日発行) P.14

登録日: 2020-10-21

最終更新日: 2020-10-28

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日本小児神経学会から早期承認要望が出されていたメラトニン製剤(商品名:メラトベル)が「小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善」を効能・効果として2020年3月に承認、6月に発売された。神経発達症(発達障害)に伴う睡眠障害はどれほど深刻な状況にあり、メラトニン製剤の使用で患児の生活はどう変わるのか。神経発達症と睡眠障害の問題に詳しい久留米大学小児科主任教授の山下裕史朗さんに話を聞いた。

 

日本は大人も子どもも“世界一寝ない国”とされ、「夜なかなか眠れない」「途中で起きてしまう」など睡眠の問題を抱える子どもは多い。その日本にあって、神経発達症の子どもはさらに睡眠障害の有病率が高く、自閉スペクトラム症(ASD)の50~80%、注意欠如・多動症(ADHD)の25~50%で睡眠障害が合併しているとの報告がある。

「日本の子どもは少なくとも25%以上は睡眠に何らかの問題があるといわれていますが、神経発達症の子どもはより深刻な状態にあります。私たちの小児神経外来を受診する患者・家族も、多くの方が睡眠障害の問題に悩んでいます」(山下さん)

レット症候群への使用で効果を実感

神経発達症に伴う睡眠障害にはメラトニンが有効とされながら、これまで国内には医薬品として承認されたメラトニン製剤がなく、薬物療法を行う際は、メラトニンのサプリメントを米国などから個人輸入して使うか、成人の入眠障害を適応症とするメラトニン受容体作動薬ラメルテオン(商品名:ロゼレム)を適応外使用で小児に使うケースが多かった。

山下さんが小児の睡眠障害に対するメラトニンの効果を実感したのは20年以上前。1万人の女児に0.9人程度の割合で発生する難病「レット(Rett)症候群」の患児を受け持った時だ。

「レット症候群はDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)では神経発達症に分類されていませんが、睡眠障害を伴うケースが多く、夜中に頻繁に覚醒し叫んだりする一方で、昼間は過眠状態にあり、本人はもちろん親のQOLも非常に低い疾患です。当時、海外の文献でメラトニンが有効という論文が出始めていたので、海外から取り寄せて2人のお子さんに使ってみたところ劇的に改善し、メラトニンは効果があるという強い印象を持ちました」

生体内で作られる内因性ホルモンのメラトニンは、眠気を引き起こす催眠作用と睡眠・覚醒のリズムを調節する概日リズム調節作用がある。山下さんは、内因性ホルモンと同一の化学構造式を持つメラトニンを有効成分とした「メラトベル」が承認されたことは「大きな意義がある」と強調する。

「メラトベルは内因性ホルモンと同一のメラトニンを成分としているため、自然な眠りを得ることができます。主な副作用は傾眠で重篤なものはありません。保険適用された薬を使えるのは、適応のある患者さんにとって大きなメリットです」

一般の小児科医も睡眠と発達に関心を

入眠困難による睡眠不足は、神経発達症の多動や過活動、興奮などの症状を強める可能性が指摘されている。「神経発達症と睡眠障害は密接な関係にあり、神経発達症の子どもは、睡眠・覚醒のリズムを整えて夜よく眠れるようにすると日中の行動や注意力も改善していきます。入眠困難の改善は神経発達症にとって大事な治療の1つなんです」(山下さん)

診療現場で気をつけなければならないのは、神経発達症に伴う睡眠障害は、患者・家族側から訴えることが少なく、医師の側から積極的に聞かないと話題になりづらいことだ。

は、久留米大学小児科での神経発達症診療の流れをまとめたもの。主訴や病歴、既往歴では睡眠の話は出てこないことが多いため、生活歴を聞く際に「食事と睡眠」について必ず聞き、治療では「まずは睡眠から攻める」という方針を立てている。

「神経発達症の子どもを抱える親は、実際には睡眠の問題に悩んでいる方が多いのですが、行動や学習などそれ以外の問題にもっと困っているため、睡眠の問題をあまり話題にしないのです」(山下さん)

「睡眠障害は治療可能」という認識があまりないことも、家族が睡眠の問題を口にしない要因になっていると山下さんは指摘する。「メラトニン製剤という“武器”が出来たことで、今後、神経発達症診療は変わってくると思います。一般の小児科の先生方にはぜひ子どもの睡眠と発達により関心を持っていただき、神経発達症の子どもを診るときは、必ず睡眠の問題に光を当てていただきたいと思います」

スマホ・ゲームとの付き合い方の指導も

メラトベルの開発では、ASDを有する睡眠障害の小児196例を対象に国内第Ⅱ/Ⅲ相試験が行われ、プラセボとの比較で「入眠潜時(入床から入眠までの時間)の短縮」が確認された()。さらに神経発達症を有する睡眠障害の小児99例を対象とした国内第Ⅲ相試験では、入眠潜時の短縮に加え「日中の機嫌や異常行動の改善」もみられた。

添付文書では、神経発達症の診断はDSM-5に基づき慎重に行い、睡眠衛生指導などを実施した上で投与するよう注意喚起されている。山下さんは睡眠衛生指導の大切さも指摘する。

「朝ご飯をしっかり食べ、午前中に日の光を浴び、日中に適度な運動をすることが夜のメラトニン分泌を促します。スマホやゲームとの付き合い方も大切な指導となります。神経発達症の子どもはネットやゲームに依存しやすい傾向がありますが、寝る前の2時間前、最低でも1時間前にはやめるようにしないと入眠困難は改善しません」

新型コロナ感染症流行下の外出自粛によるストレス・不安感の増大で神経発達症の小児の睡眠問題はより深刻な状況にあるとされる。新たな治療手段が使えるようになった今、睡眠問題への小児科医の積極的な介入が期待されている。

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