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若年化する薬物乱用[先生、ご存知ですか(28)]

No.5005 (2020年03月28日発行) P.62

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2020-03-31

最終更新日: 2020-03-25

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最近、芸能人や元プロ野球選手が覚醒剤などの所持で逮捕されるというニュースを耳にします。残念なことに、薬物乱用が身近なことになっています。

厚生労働省は、15歳から64歳の国民を対象に全国調査を行い、薬物使用に関する生涯経験率(1回でも使ったことがあるか)を調べています。2017年の結果によると、大麻が1.4%と最も多く、有機溶剤が1.1%、覚醒剤が0.5%と続きました。そして、これにヘロイン、コカイン、MDMA、危険ドラッグを含めた7種類のいずれかを使った経験がある人は国民の2.3%にも上りました

この年の薬物事犯による検挙者は約1万4千人(警察庁による)ですが、このように検挙される人は氷山の一角です。私たちが接する患者さんの中にも違法薬物使用者が含まれているかもしれません。

少年にも

私は、矯正医療に携わっていますが、少年鑑別所を経て少年院に入って来る少年達と接します。幼少期から十分な愛情を注がれずに育てられ、虐待を経験した少年が多くいます。そして、中学校や高校にきちんと通わず、悪の誘いにのって夜遊びをしたり、風俗営業などに従事します。その時知り合った人などから薬物を勧められ、興味本位で手を出したら止められなかった、という例が多いのです。

このような薬物に手を染めた少年の多くは、何か1つだけの薬物しか使用していないということはなく、これまで多くの薬物を乱用してきました。例えば、最初は有機溶剤(シンナー)でしたが、そのうち飽きてきて危険ドラッグを使い、さらに刺激を求めて覚醒剤を使用するという感じです。

少年院には覚醒剤使用の後遺症で精神症状が出現している子や、覚醒剤の廻し打ちでC型肝炎に罹患している子もいます。

さまざまな障害

上記のように、薬物使用によって精神神経症状だけでなく感染症を合併することがあります。危険ドラッグが蔓延していた頃に、危険ドラッグ使用後に都内の救急病院に搬送される患者についての検討がなされました。

搬送時に、悪心、嘔吐、動悸などの交感神経症状や、興奮、不安、恐怖、錯乱といった精神神経症状を呈することが多かったのですが、約10%に横紋筋融解症が、5%に肝障害と腎障害がみられたそうです。薬物により様々な障害が生じることがあるので、蔓延は予防されなければなりません。

乱用者の多くが治療を受けていない

2014年に、精神科病床がある全国の医療施設を対象に調査が行われました。その結果、薬物乱用が原因で精神科の医療施設に入通院した人は過去最高の数になったそうです。

その原因となった薬物は、覚醒剤が42.2%と最も多く、危険ドラッグが23.7%と続きました。しかしながら、医療施設や都道府県などの精神保健福祉センターで、「認知行動療法」などの治療プログラムを受けた経験がある人は37.6%にすぎないことが分かりました。

多くの薬物乱用者は治療されていないようです。薬物乱用者が若年のうちに発見され、治療が進められることを願っています。

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