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【識者の眼】「高齢者『意思決定』はEBM的にも困難」小田倉弘典

No.4999 (2020年02月15日発行) P.62

小田倉弘典 (土橋内科医院院長)

登録日: 2020-02-12

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厚生労働省が「人生会議」啓発のために芸能人を起用して作ったポスターが論議を呼んだのは記憶に新しい。「人生会議」もACP(advance care planning)も医療・ケアにおける意思決定プロセスの一つに位置づけられる。意思決定にはいくつかの様式があるが、近年SDM(shared decision making)の概念が提唱され、患者さんと医療者がエビデンスを共有して一緒に医療行為を決定していく姿勢が普及してきている。

しかしながら特に高齢者における意思決定は、 ACPに限らず全般に困難を感じることが多い。高齢者には、認知機能低下をはじめ家族、地域、医療制度を巻き込んだ様々な因子が複雑に関係している。その中でもエビデンスにまつわる問題は最も目に付きやすいものである。

すぐ思いつくのは、「高齢者のエビデンスが乏しい」というものである。多様性に富む高齢者は、厳格な組入基準を持つ無作為割付試験の対象にはなりにくい。さらにここに来て「競合リスク」が新たに問題視されてきている。2019年11月の米国心臓協会学術集会(AHA2019)で発表された75歳以上の心房細動患者を対象とした解析によると、質調整生存年(QALY)で評価した経口抗凝固療法による正味の臨床上の利益(net clinical benefit:NCB)は加齢とともに減少し、その減少には死亡という競合リスクが大きく影響していた。感度分析において死亡の競合リスクを含めない場合の推定NCBは高値となり、その傾向は高齢者ほど顕著だったのである。つまり、脳梗塞予防などのベネフィットが得られる前に患者はそれ以外の原因で死亡してしまうため、高齢者では抗凝固薬の正味の臨床的利益が見込めないことが示唆されるのである。

こうなると高齢者とはいえエビデンスは何を見ているのかわからなくなってしまう。ましてやそれ以外の要素も加味した意思決定とはどんなものなのか。もっと言えば本当に「意思」を決定して「共有」できるのか。これから様々な時事問題を絡めながら考えていきたい。

小田倉弘典(土橋内科医院院長)[高齢者医療][意思決定][SDM]

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