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【識者の眼】「悪性黒色腫との戦いは始まったばかり」大塚篤司

No.4998 (2020年02月08日発行) P.58

大塚篤司 (京都大学医学部外胚葉性疾患創薬医学講座特定准教授)

登録日: 2020-02-06

最終更新日: 2020-02-04

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抗PD-1抗体であるオプジーボ(一般名:ニボルマブ)が初めて保険適用となったのが2014年。世界で初めて、本邦の悪性黒色腫で使われた。その効果はお墨付きで、悪性黒色腫が治る時代が到来した、と思った。

悪性黒色腫でのオプジーボの奏効率は約40%。高い確率で効果が出る、と報告されている。しかし、これは海外のデータであり国内では20〜30%とやや低い。海外と国内の奏効率の違いの原因として、悪性黒色腫の型の違いが指摘されている。欧米で多い悪性黒色腫は、露光部や非露光部を含め皮膚に多い。一方、日本人を始めとするアジア人では、手足などにできる末端黒子型が40〜50%を占める。さらに、欧米では数%と報告されている粘膜型が日本人では10〜20%と高い。

オプジーボを始めとする免疫チェックポイント阻害剤は、体細胞変異(mutation burden)の数が多いほど効果を発揮することが報告されている。がん細胞に変異が多いほど、ネオアンチゲンとなりT細胞の攻撃を受けやすい。オプジーボがT細胞の機能を強化するため、変異が多いほど効果を発揮する。

この変異数は、免疫チェックポイント阻害剤のバイオマーカーとして報告されている。実臨床で使用するにはまだ時間が必要だが、多くの論文で体細胞変異の数とオプジーボの治療効果に相関があると指摘している。

さて、日本人に多い末端黒子型や粘膜型に関していうと、残念ながら体細胞変異が圧倒的に少ない。欧米人に多い皮膚型の悪性黒色腫と比べると、全く違う遺伝子変異パターンを有する。この遺伝子変異の違いが、オプジーボの治療効果の違いを反映していると考えられる。

悪性黒色腫は若い患者さんが多い。今日も悔しさと悲しみでいっぱいのまま、1人の女性を見送った。悪性黒色腫はいまだ治らないがんである。戦いはまだ始まったばかりなのだ。

大塚篤司(京都大学医学部外胚葉性疾患創薬医学講座特定准教授)[皮膚科]免疫チェックポイント阻害剤]

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