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史上最低の広告[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(280)]

No.4988 (2019年11月30日発行) P.63

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2019-11-27

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『イタリア人医師が発見した ガンの新しい治療法』(現代書林)の四段抜き広告(11月12日付、朝日新聞・朝刊)には腰が抜けた。そこには、がんの原因は真菌であり、その治療法は重曹が著効を示すと書いてあった。100%ありえない。

さすがにSNSで問題になり、翌々日には、ヨーロッパ取材網に依頼して調べたところ、その説を唱えた人はイタリア医学界から追放されているようで、少なくとも「医師」と表示して治療法を紹介していることには疑念がある、というお詫びがネットに出された。かなり腰の引けた言い草である。

ネットで告知をしたところで、広告に比べれば見る人の数などたかが知れている。こんなことで幕引きにするつもりかと怒っていたら、さすがに事の重大さに気づいたのか、21日付け紙面にお詫びが出た。

書籍の広告でお詫びを出すというのは異例のことだろう。真摯な態度に一応は敬意を表しておく。が、「広告表現は広告主の責任においてなされるものですが、『がんは真菌(カビの一種)だ』などとする表現は媒体として十分な検討を行うべきでした」などという言い訳はいただけない。

アホらしいと思いながらも、この本を購入した。取材網になど頼むまでもなく、冒頭に、イタリアで3年間の禁固刑を受けて医師免許を剝奪されたことが、勲章であるかのように書かれているではないか。

「掲載判断にあたっては、内容に応じて慎重なチェックに努めてまいります」とあるが、出だしからこの調子の本だ。タイトルを見て少しでもおかしいと思い、本を手にしたらすぐにダメだとわかったはずだ。

朝日新聞には立派な科学医療部がある。ときおり取材を受けるが、記者のみなさん優秀でよく勉強しておられる。そういった記者さんたち、この広告騒動について忸怩たる思いでおられるにちがいない。

広告部と科学医療部はまったく違う畑なのだろう。斜陽の新聞業界だから広告が欲しいのもわかる。しかしそれ以前に、新聞社として、医学リテラシーとまでは言うまい、最低限の常識があれば、こんなバカなことはおこらなかったはずだ。

これを契機に、医療についての「トンデモ本」の広告は止めてもらいたい。少しでもおかしいと思えば、科学医療部に内線電話をかければすぐにわかる話なのだから。

なかののつぶやき
「精神衛生上悪いので、できるだけ世間のことにはいちいち怒らないようにしています。しかし、この件はさすがに腹がたちました。この本、最初の広告の後、アマゾンで110位まであがっていましたから、騙されて買った人もおられるのでしょう。間違えても重曹療法を試されないことを願うばかりです」

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