国家公安委員会・警察庁防災業務計画では、災害発生時に都道府県警察がとるべき措置について定めていますが、救出救助活動と身元確認については医療と深く関係することになります。
日本医師会は平成27年7月に警察庁と協定を締結し、大規模災害等で多数の死体検案を実施する必要がある際に、速やかに医師を派遣することを確認しました。すなわち、多数の死者が生じる大規模災害や事故時に、円滑な身元確認と死体検案が行われる必要があり、平時よりその体制が準備されていなければなりません。私たちは内閣府が発布した死因究明等推進計画に基づき、総合防災訓練等を活用して、機動的に対応できるよう訓練を進めてきました。
まず、黒タッグをつけられた遺体が遺体受付に搬送されます。その際に、担当警察官が、発見場所や発見時の状況、所持品、身元確認に関する情報などを搬送者から引き継ぎ書類を作成します。遺体には番号が付されますが、死者に関する書類と身元確認に有用な所持品(免許証など)は、透明なファイルケースに入れて、遺体の首からかけられた状態にします。
次に、警察官による死体の調査・検視、医師による死体検案が行われます。警察官は衣服の確認、写真撮影、記録を含めた検視業務を行い、医師は全身を観察して、死体検案を行います。必要に応じて尿や心臓血などの体液を採取して簡易検査をします。そして、死体検案書が作成されます。死体検案書の記載においては、外因死の追加事項に記載する内容などを統一させるよう、検案医師間で周知されます。
続いて歯科医師による歯牙所見の確認ですが、口腔所見の観察と写真撮影、デンタルチャートへの記載が行われます。必要に応じてポータブル歯科X線撮影が行われ、歯牙所見はパソコンへ入力されます。さらに、警察官によって指紋と掌紋が採取されます。
以上の手続き終了後は、遺体の洗浄と納棺が行われ、遺体安置場所に移されます。また、得られた記録は関係記録総括場所へ集約されます。
身元が判明した遺体は遺族のもとにかえされますが、遺族対応室において死体検案書の交付とともに、その内容が説明されます。この際に、被害者支援対策員である警察官と災害死亡者家族支援チーム(DMORT)が遺族支援を行います。すなわち、突然の家族の死や変わり果てた姿に取り乱した遺族に対する急性期のケアを行います。
このように、大規模災害時でもシステマチックで精度の高い死体検案が行えるようにしました。東日本大震災で起きたような遺体の取り違えが生じないよう工夫されています。
大規模災害では、突然に家族を失った悲しみと、変わり果てた姿をみることで、遺族は強い精神的ダメージを受けます。理想的な対応としては、遺体と家族の面会に立ち会い、取り乱す家族への対応など、災害時における急性期の遺族ケアを実践することです。死因や死に至る機序を明らかにし、これを家族に説明することで、家族の悲嘆を癒せます。
日頃からの死因究明においてはもちろんのこと、大規模災害では同時多発的な喪失体験であることから、遺族に対する急性期からのグリーフケアを実践することが重要なのです。