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プラセボ製薬?[なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(275)]

No.4983 (2019年10月26日発行) P.65

仲野 徹

登録日: 2019-10-23

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プラセボというのはなかなか含蓄に富んだ言葉だ。その語源はラテン語のplacēbōで、喜ばせるという意味。広辞苑にはプラシーボとして載っていて、語義はあっさり偽薬とある。しかし、単なる「偽薬」ではちょっとニュアンスが違うような気がする。

うつ病では8割もの患者さんにプラセボ効果があるとされている。そうなると、それをプラセボと呼ぶかどうかは別として、プラセボをプラセボではなく実際の治療薬として使えるような気さえする。スミマセン、ややこしい文章で……。

脳科学の研究から、プラセボは期待、情動、注意といった回路を活性化することによって効果を発揮することがわかっている。しかし問題は、そういった反応が環境条件、特に医師の振るまいなどによって大きく左右されることだ。

基本的にはプラセボ賛成派である。ただし、そこには1つ留保条件がある。そのプラセボが十分に安価でなければならない、ということだ。

どうみても医学的に効果のあるはずがないサプリメントなどが売られている。本当かウソかは知らないが、使用者のコメントには効くと書いてあったりする。効くのならいいかとも思うのだが、バカ高かったりすることが多いのは問題だろう。一方で、十分なプラセボ効果を生み出すような安いプラセボがありえるかという問題もある。

と、前々から考えていたのだが、『僕は偽薬を売ることにした』という、極めて刺激的なタイトルの本を発見した。プラセボのメカニズムや、その積極的利用の可能性について、非常に論理的に書かれている。

著者の水口氏は、京大薬学部を出て製薬メーカーで新薬開発に携わり、プラセボ製薬株式会社を設立した。実際に「プラセプラス®」という製品も売っている。もちろん医薬品ではないので、プラセボ“製菓”と言われたりすることもあるそうだ。

たとえば認知症で、服用する必要がないのに、どうしてもお薬を飲みたがる患者さんなどが「適応」だ。オーダーメイドでそっくりの偽薬─文字通りのニセ薬─も作れるが、さすがに問題が大きすぎるらしい。

今のところ経営は軌道に乗っていないそうだけれど、ひとつの試みとしてはかなり面白いような気がする。水口社長にはぜひがんばってもらいたい。

なかののつぶやき
「いやぁ、こういうことを真剣に考えて、実際に行動に移す人がいるとは驚きです。製品はアマゾンで購入可能です。興味のある方はぜひ」


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