SUMMARY
マルチモビディティは,プライマリ・ケアにおいて,最も重要な臨床上の課題のひとつであり,近年研究領域としても大いに注目を集めている。わが国でも,マルチモビディティ患者のケアの質向上に資するエビデンスを創出していく必要がある。
KEYWORD
治療負担
ポリファーマシー,服薬回数の増加,受診や検査頻度の増加,ライフスタイルの変化など,特にマルチモビディティ患者で増大しやすい治療に関連する患者側の負担。
PROFILE
日本医療福祉生活協同組合連合会家庭医療学開発センターで家庭医療の研鑽を積み,現在はアカデミアでプライマリ・ケアの研究に注力している。医学博士,医療政策学修士,家庭医療専門医,社会医学系専門医,臨床疫学認定専門家。
POLICY・座右の銘
吾唯足知
住民にとって医療との最初の接点を担い,様々な職種と連携を取りながら,幅広い健康問題を取り扱うプライマリ・ケアにおいて生じるクリニカルクエスチョンは,臨床現場や医療政策にとって真に切実な課題が多い。プライマリ・ケア研究の実践は,わが国のヘルスケアシステムの質を向上させる上で重要と言える。本稿では,プライマリ・ケア研究の例として,多疾患併存状態(マルチモビディティ)に関する研究を紹介する。
マルチモビディティは,2つ以上の慢性疾患が一個人に併存している状態であり,中心となる疾患を特定できない状態を指す(一方,特定の疾患が中心になり,合併症が生じている状態は,コモビディティと呼ばれる)。高齢化や疾病構造の変化により,マルチモビディティを有する患者は増加傾向と考えられており,特にプライマリ・ケアにおいて,最も重要な臨床上の課題のひとつとして認識され,近年研究領域としても大いに注目を集めている。
わが国では諸外国と比較し,マルチモビディティに関するデータは非常に限られており,どの程度の住民がマルチモビディティを有しているか,といった基礎的な疫学データもこれまで不足していた。そこで,我々は全国調査を通じてわが国のマルチモビディティに関する疫学調査を実施し,マルチモビディティの有病割合は,18歳以上の住民において29.9%,65歳以上の高齢者においては62.8%に上ることを明らかにした1)。