地域医療に従事する医師を育成する大学を卒業した。卒後3年目、人口1000人弱の漁村の診療所に赴任した。ある日、民生委員から近所の老人の往診を頼まれた。真夏の暑い日だった。知的障害のある40代の息子と暮らす80代のおばあさんが、窓を閉め切った古びた家屋で、床一面のごみの中で意識朦朧となっていた。入院するお金はなく、身寄りは誰もいなかった。毎日往診して脱水を治療し、保健師や民生委員と2人の生活支援を考えた。今でいうところの在宅医療、地域ケア会議というところか。
卒後8年目に人口1800人の山村の診療所に赴任した。整形外科治療を終え自宅へ戻った80代の男性患者のリハビリ依頼を病院から受けた。右膝、右股関節は以前から拘縮していて、右下肢は一本の棒のようになっていた。排尿排便は立ったまま行っていたらしい。長い入院生活のため、ベッド上で坐位になるのがやっとであった。身の回りの世話は、虚弱な妻がなんとかこなしていた。すきま風が吹き込む古く傷んだお宅であった。板の間は靴下をはいていても数分で足がしびれてきそうになる真冬のことであった。朝夕の2回、看護師と毎日自宅を訪問し、ベッドから起き上がって自力で立てるようになった。今でいう在宅リハビリというところか。
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