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麻疹[私の治療]

No.4971 (2019年08月03日発行) P.49

三﨑貴子 (川崎市健康安全研究所企画調整担当部長)

登録日: 2019-08-02

最終更新日: 2019-07-30

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  • 麻疹は,Paramyxovirus科Morbillivirus属の一本鎖RNAウイルスである,麻疹ウイルスによる急性の熱性発疹性疾患である。麻疹ウイルスの感染力はきわめて強く,免疫のない者が感染するとほぼ100%が顕性感染を起こし,30%に肺炎や中耳炎,脳炎などの合併症を起こす。

    ▶診断のポイント

    近年,わが国ではワクチンの普及とともに麻疹の報告は大幅に減少した。典型例はまだしも,母体からの移行抗体の残存やsecondary vaccine failureなどにより,症状や経過が非典型的となる修飾麻疹は臨床診断が難しく,患者のワクチン接種歴,発症1~3週間前の滞在地の流行状況,麻疹患者との濃厚接触の有無や程度などが,麻疹を疑うべき重要な基本情報となる。これらをふまえ,発熱と発疹,カタル症状がそろえば臨床診断例として最寄りの保健所に届出を行うが,発症から10日前後までのウイルス排出量の多い急性期に,咽頭拭い液,血液(EDTA血),尿の3検体を採取し遺伝子検査を実施すると,遺伝子型も含めた診断の確定に結びつく。
    麻疹特異IgM抗体は発疹出現時には陰性で,その後4日程度でおおむね陽性となるため,適切な時期の検体採取が重要となる。免疫のない感受性者が罹患した場合は咽頭発赤や結膜充血が強く,耳介周辺から出現した鮮紅色で融合傾向のある発疹が全身に広がる。発疹出現の時期に一致して頬粘膜にコプリック斑が出現し診断の決め手となることも多いが,近年の修飾麻疹では粘膜所見はほとんどみられず,発疹も薄く色素沈着を残さずに消退する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    麻疹に特異的な抗ウイルス療法はなく,予防,すなわちワクチン接種をしておくことが何よりも重要である。空気感染のため院内では患者を陰圧室に隔離し,重症化に注意しながら対症療法を行う。発疹出現とともに感染性は低下するが,発疹出現後4日間もしくは発疹が色素沈着するまでは感染力があると考える。対面での濃厚接触では,ある程度十分な抗体価を保有していても感染することがあり,医療従事者は対応状況に応じてN95マスクを着用するなど,適切な個人防護が必要となる。感受性者が曝露した場合は72時間以内に発症予防効果を期待して麻疹含有ワクチンを接種する。72時間を過ぎても早期の接種は重症化予防につながるため,接種不適当者でなければ検討する。6日以内であれば人免疫グロブリン〔体重kg当たり1回15~50mg(0.1~0.33mL)〕の筋肉内注射による発症予防も可能であり,妊婦や免疫不全者,ワクチン未接種の乳幼児などの感受性者に対しては投与を検討する。

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