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退職者分の医療法人出資金の取り扱いは?

No.4962 (2019年06月01日発行) P.50

益子良一 (税理士法人コンフィアンス代表社員税理士/専修大学法学部講師)

登録日: 2019-05-29

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当医院は持ち分あり医療法人が運営しています。最近,出資者の1人である社員が退職しました。届出や退職金等の清算は済ませています。法人としては資本金の総額はそのままの方針です。
そこで,退職者の出資金について,もし返還請求がされなければ,出資者名簿から退職者を抹消し,その減資の分を他の出資者に按分することができるのでしょうか。また可能な場合,どのような文書にその内容を記録すれば正式なものになるのでしょうか。加えて返還請求の時効などはありますか。

(静岡県 A)


【回答】

【出資持分の放棄がされない限りは退職者の財産である】

社団医療法人に出資した者が,当該医療法人の資産に対し出資額に応じて有する財産権のことを出資持分(出資金)といいます。

平成19(2007)年4月1日施行の第5次医療法改正前に設立された医療法人は,出資持分の払戻しについて制限を定めておらず,当該医療法人の定款の定めにゆだねられています。

厚生労働省(旧厚生省)は,「社団医療法人モデル定款」(第5次医療法改正前「モデル定款」)を公表しており,その第9条で「社員資格を喪失した者は,その出資額に応じて払戻しを請求することができる」とされています。社団医療法人は,医療法の規定に基づき設立されますので,質問者の医療法人の定款でもモデル定款に準じた同趣旨の規定が置かれていると考えられます。

モデル定款第7条および第8条では,社員がその資格を失う場合として,除名,死亡,退社の3つを掲げていますが,社員の資格を有したまま払戻請求権の一部または全部を行使することは,医療法の剰余金の分配の禁止規定に抵触するため,払戻請求権を行使するのは退社して社員の資格を喪失した場合に限られます。

ご質問は「退社に伴い出資持分の返還請求がされない場合は,出資者名簿から抹消することが可能か」ということですが,出資持分は経済的価値を有する財産権であり,定款に反するなどの事情がない限り譲渡性が認められていますので,出資持分は,株式会社の株式とは異なり,出資持分と社員の地位とを結合した概念ではありません。社員の資格を喪失することと,出資に対する払戻請求権を行使することは別の行為になりますので,退社して出資持分の返還請求がないからといって出資者名簿から抹消することはできません。

退社に伴い出資持分の返還請求がされない(将来解散したときにも返還しない)ためには,出資した者から「自分が出資した出資持分は放棄する」旨を記載して署名押印された文書を取得しておくことが必要です。出資持分を放棄した旨の文書によってはじめて出資者名簿から抹消することが可能となります。

出資持分の放棄が行われますと,各人の出資持分に変動が生じるので,出資持分を放棄した者から出資持分が増加した者に対し,贈与が行われたとして贈与税が生じます。なお,贈与税の課税に当たり,その医療法人に出資額以上の含み益がある場合には,その含み益も含めたところで贈与税の課税が行われます。

例えば,1000万円ずつ出資した出資者が3人(出資金3000万円)いて,そのうちの1人が退社したとき,その医療法人に利益剰余金が3000万円あったとします。退社した人が自分の持分を放棄しますと,2000万円(退社した人の出資金1000万円と退社した人の分の利益剰余金=含み益1000万円)が,残りの2人に移転することになります。

残った2人は1人当たり1000万円(退社した人の出資金500万円と利益剰余金500万円)の贈与を受けたとして贈与税の申告が必要となります。

【参考】

▶ 国税庁:医療法人の出資持分の変更があった場合.
[http://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/14/ 06.htm]

▶ 益子良一, 松本重明, 共著:医療機関の税務相談事例集. 4訂版. 大蔵財務協会, 2017, p400-1.

【回答者】

益子良一 税理士法人コンフィアンス代表社員税理士/専修大学法学部講師

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