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研究目的の保険適用外検査費用を患者が負担することの問題点は?

No.4946 (2019年02月09日発行) P.59

工藤陽一郎 (新星総合法律事務所 弁護士)

登録日: 2019-02-06

最終更新日: 2019-02-05

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ある施設で,勤務医が自らの研究目的のために患者から採取した検体を使用し,保険適用外の検査項目を外部の検査会社に委託し,費用負担は患者に求めるといったことが行われていると聞きました。この行為は数年にわたり続いており,院内の臨床研究倫理審査委員会の承認を得ておらず,患者へのインフォームドコンセントは口頭で行い,会計担当職員の説明による私費支払い同意書への署名のみです。
(1)この行為は,臨床研究法の特定臨床研究に当たりますか。倫理審査委員会の承認を得ずに行った場合,この医療機関は処罰の対象となるのでしょうか。
(2)混合診療に当たるのでしょうか。
(3)患者が支払った検査費用はクーリングオフの対象となりますか。
(4)検査会社との契約が過度に安価な場合,研究資金の提供に当たりますか。また,論文発表時等に「利益相反行為なし」とすることはできなくなりますか。

(秋田県 K)


【回答】

【健康保険法の「適用外」と薬機法の「適応外」は異なる問題であり,区別が必要】

(1)特定臨床研究とは

まず,ご質問の情報の限りでは本件の研究が特定臨床研究(臨床研究法第2条2項)に該当する事情は見当たりません。特定臨床研究は,医薬品製造販売業者またはその特殊関係者からの研究資金等の提供を受けて実施する臨床研究,または,医薬品医療機器等法(薬機法)における未承認・適応外の医薬品等の臨床研究等を指しますが(第2条2項),ご質問にある健康保険法のもとで保険「適用外」かどうかという話と,薬機法のもとで「適応外」の医薬品等の臨床研究かどうかという話は,異なる問題であって区別が必要です。
また,ご質問の刑事処罰については,特定臨床研究のうち処罰対象となるのは,実施基準違反に対する行政命令を無視した場合(第39条,第41条)など悪質な場合に限定されており,本件も直ちに刑事処罰がなされるような状況とは思われません。
なお,本件は人を対象とする医学系研究である以上,特定臨床研究に当たるか否かにかかわらず,倫理委員会による審査は必要になると思われます1)

(2)混合診療となるかどうか

「一連の診療における保険診療と保険外診療との併用」を指す,いわゆる混合診療は原則禁止とされ,一連の診療全体を自由診療として扱い,保険給付を認めない運用がされています(厚生労働省「保険診療と保険外診療の併用について」,最高裁判所平成23年10月25日判決2))。ただし,①保険外診療であっても厚生労働大臣が定める「評価療養」や「選定療養」に該当する場合には保険診療との併用が認められ,また,②「療養の給付と直接関係のないサービス」については,そもそも保険診療との併用の問題が生じないとされています3)
①については,厚生労働省保医発0624第3号(平成28年6月24日)などで,保険診療としての回数制限を超えた腫瘍マーカー検査の一部などが選定療養とされています(なお,選定療養の対象拡大については現在も議論が行われているところです)。②に当てはまる検査については,厚生労働省保医発0320第2号(平成30年3月10日)で,「治療中の疾病又は負傷に対する医療行為とは別に実施する検診(治療の実施上必要と判断し検査等を行う場合を除く。)」などが示されています。
本件は,「(勤務医)自らの研究目的」の検査とのことなので,具体的内容によっては,②の点から,保険診療との併用の問題を生じない(混合診療に当たらない)と評価される余地があると思われます(個々の評価は各地方厚生局の都道府県事務所の判断によります)。

(3)診療契約のクーリングオフ

特定商取引法などにより,一定の契約類型に関してクーリングオフ(一定期限内に一方的に契約の解除等ができる制度)が認められていますが,現状,美容医療や歯科などの一部を除き,診療契約一般に関してはクーリングオフの制度はありません。

(4)「研究資金等」の要件

特定臨床研究の要件である「研究資金等」は,「臨床研究の実施に係る人件費,実施医療機関の賃借料その他臨床研究の実施に必要な費用に充てられることが確実であると認められる資金」(臨床研究法施行規則第4条)を「含む」と規定されています(臨床研究法第2条第2項第1号)。それ以外にいかなるものが研究資金等に含まれるかについては,現状裁判例の蓄積は乏しいものの,厚生労働省は,「物品提供及び労務提供」は,研究資金等に含まれないとの見解を示しています〔臨床研究法の施行等に関するQ&Aについて(その1)3ページ〕。
ご質問中の「検査会社との契約」は,検査に係る物品提供と労務提供を含んだ契約と思われますので,上記厚生労働省の見解が参考になると思われます。
また,論文への「利益相反行為」に関する記載については,各学会の定めるルールを参照してそれに準拠して頂く必要があろうかと思われます。

【文献】

1) 厚生労働省:人を対象とする医学系研究に関する倫理指針, 2014.
[https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000168764.pdf]

2) 判例タイムズ. 2013;1384:95.

3) 厚生労働省:いわゆる「混合診療」問題について, 2004.
[https://www.mhlw.go.jp/houdou/2004/12/dl/h1216-1b.pdf]

【回答者】

工藤陽一郎 新星総合法律事務所 弁護士

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