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居眠りの恐ろしさ[先生、ご存知ですか(13)]

No.4944 (2019年01月26日発行) P.64

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2019-01-25

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私たちは、ついうとうとしてしまうことが毎日のようにあります。このような居眠りは、時として重大事故につながります。

交通事故全体の原因を法令違反別に見てみると、安全不確認が30.7%と最も多く、脇見運転15.6%、動静不注意11.3%、漫然運転8.6%と続きます。わが国の統計では「居眠り」という項目はなく、この漫然運転に含まれます。特に死亡事故に限ると、最も多いのが漫然運転であり(16.8%)、運転操作不適が13.2%と続きます。居眠りを含む漫然運転は、事故原因としては4番目ですが、死亡事故の原因としては最も高い割合を占めます

さて、安全な運転操作を行うには、覚醒度、集中力、判断力などさまざまな能力が適正に機能していることが必要です。睡眠は脳内の睡眠発現メカニズムの働きで調整されており、個体の生理的な必要性から生じる現象です。睡眠には大脳皮質を休息させ働きを回復させるための役割があります。したがって、睡眠が不十分な状態が続くと、眠気が強くなり脳が適切に働かなくなるのです。自動車の運転にはさまざまな高次脳機能が必要である故、まずは適切な睡眠が重要です。

適切な睡眠は量的および質的な面から考えられます。職業上で徹夜をすることや慢性的な短時間睡眠などが量的な面の低下として挙げられ、睡眠障害に罹患していない健常人も多く当てはまります。ドライビングシミュレーターを用いた実験によると、前日の睡眠が5時間の条件では、8時間の時に比べて運転中の脇見が1.7倍増加していました。また、このうち事故原因となった脇見に限ると、睡眠が5時間の条件では短い脇見が2.1倍、長い脇見が3.6倍多く生じていたそうです。慢性的に1日6時間未満の睡眠を2週間持続させると、最大2日間全く睡眠をとっていない状態と同様の認知機能の障害をもたらし、さらに多くの対象者は、認知機能が障害されていることに気づいていなかったそうです。すなわち、運転者が眠気を感じていなくても睡眠時間が減少することにより運転能力が低下します

傾眠状態を含めて運転中の居眠りは高率に事故を引き起こします。筆者らはドライブレコーダー映像に基づき、直進中の車両と横断してきた自転車との間で事故になりそうになったニアミス例を解析しました。その結果、発見から衝突までの予測時間は、障害物がないところでの横断例では2.1秒、物陰からの横断例では1.5秒でした。同様に、横断してくる歩行者との衝突時間では、横断歩道がある場所で1.6秒、ない場所で1.4秒でした。脇見や短時間の傾眠でも事故を起こす危険が高いことがわかります。

近年、自動車の予防安全性能が進歩して、ぶつからない車などの宣伝がみられます。現在の技術では、このような状態で自動車を停止させることは困難です。したがって、当分の間、このような飛び出し例での事故を避けるためには人間の瞬時における認知、判断、操作能力が必要とされるのです。

自動車を運転する人に対しては、まずは十分な睡眠をとることをご指導ください。道路交通法第66条において「何人も、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない」と定められています。明らかな睡眠不足で事故を引き起こした場合には、上記条文の過労に該当することがあります。十分な睡眠をとって自動車を運転すべきことは法で定められています。

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