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患者自身が手軽に計測できる接触式眼圧計は緑内障治療の有用なツールになる[トップランナーが信頼する最新医療機器〈在宅医療編〉(10)]

No.4943 (2019年01月19日発行) P.14

登録日: 2019-01-21

最終更新日: 2019-01-21

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「目の成人病」といわれる緑内障は、高齢化に伴いわが国の中途失明原因の第一位を占めるようになった。近年は治療が進歩したことからすぐに失明する危険性は薄れてきているものの、進行すると喪失した視野や視力を治療で改善させることができず、患者のQOLは低下の一途を辿る。連載第10回では、患者が自宅にいながら眼圧を計測できる携帯型の眼圧計を活用し、緑内障の的確な診断と治療に取り組むクリニックの実例を紹介する。【毎週第3週号に掲載】

日本緑内障学会が2000年9月から約1年間かけて岐阜県多治見市で実施した大規模疫学調査「多治見スタディ」によると、40歳以上の日本人における緑内障有病率は男女ともに5.0%であることが分かった。また、緑内障と診断された患者のうち、約90%は緑内障であることに気づいていないことも明らかとなった。一定程度進行してから診断されるケースが圧倒的に多いということだ。

緑内障は主に、①原発開放隅角緑内障、②原発閉塞隅角緑内障、③続発緑内障、④発達緑内障―の4つに分類され、日本人では緑内障患者のうち約70%が、眼圧21mmHgを超えない「正常眼圧」を示す特徴がある。健常者の平均値から算出された正常眼圧であっても、加齢などにより視神経の結合組織が変性して眼圧の許容性が低下した人にとっては視神経の負担になっていると考えられる。

点眼麻酔いらずの接触式眼圧計

緑内障治療における眼圧コントロールの重要性から、患者が24時間眼圧を計測できる手持眼圧計の貸し出しを行っているのが、東京・練馬区にあるつつみ眼科クリニックだ。同院が導入しているのは、エム イーテクニカが輸入販売する「アイケアHOME手持眼圧計」(http://www.metechnica.co.jp/icare/icare_home.html)。携帯型の接触式眼圧計で、①先端にディスポーザブルのプローブを装着、②スイッチを押すとプローブが前方にスライド、③角膜に当たったプローブの動きの変化で生じた磁場を電気信号に変換―というプロセスで計測する。

機能面での最大の特徴は、プローブ先端の角膜への接触がソフトで点眼麻酔の必要がなく、軽量かつコンパクトなため患者が手軽にどこでも眼圧を測定できるところにある。院長の堤篤子さんは、アイケアHOMEを導入した理由についてこう語る。

「緑内障と診断がついた患者さんでも、外来で眼圧を測定すると正常眼圧の場合が多く、『この人たちは夜中に高くなっているのでは』と考えていました。入院してもらって2時間ごとに眼圧を測ることができればよいのですが、そう簡単ではありません。治療開始前の眼圧傾向や日内変動を把握したいと感じていたところ、緑内障専門の先生から患者さん自身で手軽に計測できる手持眼圧計があると紹介されたので、すぐに導入を決めました」

治療に対する理解が高まる効果も

同院ではアイケアHOMEを、①眼圧の日内変動を評価、②点眼治療開始前にベースライン眼圧を詳細に把握、③点眼治療中だが視野が悪化しているなど、診療時間外の変動を確認、④点眼効果を確認―したい症例の患者に貸し出しを行っている。患者自身が眼圧計測に積極的であるかどうかも重要だという。

患者への貸し出し期間は約1カ月間。同院で使用前のレクチャーと計測データの解析を担当する視能訓練士の三枝鉄也さんは「毎日3回の計測をお願いしています。理想は2時間おきですが、1カ月間貸し出していると計測する時間がバラつき、結果的に起きている時間の眼圧はほとんどカバーできることが分かりました」と語る。費用については保証金として1万円を預かり、プローブ代(月3000円)を実費として徴収。保証金は機器返却時に全額戻すシステムだ。

アイケアHOME導入による効果について、同院で主に緑内障患者の治療に当たる堤妙さんは、「緑内障と診断された方は自分の眼圧に興味を持つようになるので、眼圧が低いのに『緑内障です』といわれても、半信半疑のまま治療を開始するケースも少なくありません。例えば当院にはセカンドオピニオンを求めて来院する患者さんも多いのですが、自分で眼圧を計測・把握することで納得や安心につながり、治療に対する姿勢がとても積極的になった症例をいくつも経験しています」と評価している。

治療薬の選択にも有用なデータ

同院でのアイケアHOMEの活用法を紹介してみよう。活用法①は、両眼を原発開放隅角緑内障と診断、視野に進行はないが外来では眼圧が時々高値を示していた55歳男性の日内変動を計測したもの。計測してみると、日中にピークがあり夜間は低下する傾向があることが分かった。外来での高い眼圧は、日内変動のパターンによるものと判断。点眼を忘れないように指導して、治療を継続することとした。

 

活用法②は、両眼を正常眼圧緑内障と診断した50歳女性の点眼効果を確認したもの。1週目はベースライン眼圧を測定、2週目からはやや眼圧の高かった左眼にプロスタグランジン関連薬の「ラタノプロスト」を夜1回点眼し、右眼はそのままで計測。点眼した左眼は平均4.0mmHg下降し、プロスタグランジン関連薬の効果を確認。右眼にも点眼を開始した。

緑内障治療では、降圧効果の高いプロスタグランジン関連薬を第一選択薬とすることが多いが、効果が出ない場合にはβ遮断薬を追加するなど症状に応じた処方が大切になる。外来で計測が難しい日内変動や点眼効果など、携帯型眼圧計から得られるデータは治療の重要な情報になると院長の堤さんは指摘する。

「アイケアHOMEによる収益面でのメリットはありませんが、緑内障治療は生涯続けなければいけないものです。治療を開始する段階で患者さんがしっかりと納得し、眼圧コントロールの重要性を認識してもらえる効果は、何よりも大きなメリットと感じています」

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