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ひとを教えるということ[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.98

木原康樹 (広島大学副学長(研究倫理担当)・大学院医歯薬保健学研究科循環器内科学教授)

登録日: 2019-01-06

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半年にわたったブレインストーミングの後、前学長の浅原利正先生にちょっとみてこいと言われて、極寒のアムステルダム大学カレッジとライデン大学カレッジハーグ校を訪問してから早4年になる。

徹底した反転授業を通して3年間リベラルアーツに漬かるとどのような人間が育成されるのかに触れ、それを支えるスタッフの情熱と螺旋状に配置されたカリキュラムの意味を学修した。冷たい空気が己の肺臓に吸い込まれて熱い炎に変わるように感じた1週間であった。その後何ができたのか、語るには時期尚早だと思う。しかし、伝統や経緯や総合制などの容易には動かない骨格を少しずつ改革し、広島大学の教官個人が教育カリキュラムとその成果に自信と責任を持つ体制に近づきつつあると感じている。文科不要論であるとか職業学校論であるとか、吹き荒れる世間の風音にはできるだけ接しないレベルで粛々と準備をするべきことなのであろう。

とはいえ、教育が何を提起し、若い人たちを「何に向かって」学ばせるのか、教育者の視点は常に問われている。かつて松下村塾の原点でもあったであろうこの教示を、一見何の変哲もなさそうな英国系アメリカ人が思い出させてくれた。リチャード・ガルブレイヒ教授はバーモント大学内科学教授で研究担当副学長を長年務め、大きな教育基金を獲得して医学と橋渡し研究とを推進し、全米3位の歴史を誇る同大学の研究力を飛躍的に高めた、とここまでは普通の話である。

しかし彼は、己のイニシアティブで2020年までに医学部を含め、大学すべての座学を排し、完璧な反転授業化を実施する、と公言した。なぜなのか。曰く、私たちの世代はDisciplinaryな教育を受け、その問題点に気づきMulti-disciplinaryな対応まではした。しかし、これからはInter-disciplinaryな関係が求められ、Trans-disciplinaryな人間が活躍する時代がくる。で、Disciplinaryが基本の座学がそこで何の足しになるというのか。

我々が獲得した「知」の体系が将来の可能性を抑えてはならないし、その覚悟で教育に臨んでいる。彼の碧い目は鋭く語りかけていた。

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