株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

おらほのオラドローム[炉辺閑話]

No.4941 (2019年01月05日発行) P.40

出光俊郎 (自治医科大学附属さいたま医療センター皮膚科教授)

登録日: 2019-01-03

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

口腔粘膜は面積的には小さいものの、口腔アフタでわかるように病変の苦痛は大きい。しかし、口腔粘膜の専門家というのは認知度も低く、患者をどこに紹介していいのか迷うことも多いと思われる。

ここ数年、自治医科大学口腔外科の神部芳則教授と共同して、口腔粘膜のテキストをいくつか上梓した。特に強調したいのは、全身性疾患の診断のヒントが口腔粘膜に現れる、ということである。鉄欠乏性貧血や悪性貧血の舌炎は有名であるが、多発性口腔アフタの原因がBeçhet病や炎症性腸疾患であったり、口腔内の出血や結節性病変が白血病やアミロイドーシスの診断のきっかけになることもある。

麻疹のKoplik斑は診断を考える上で重要な粘膜疹であるが、実際には独立脂腺の増殖であるFordyce状態や口腔カンジダ症と間違っていることも多い。こうした現状から、皮膚科や歯科・口腔外科お互いの得意分野・領域を尊重しつつ、神部教授と協力してこのような全身疾患の診断に役立つ口腔粘膜病変の重要性をアピールすることにした。

内科疾患を知る手がかりとなる皮膚症状はデルマドローム(Dermatology+Syndrome)と呼ばれている。そこであらたにオラドローム(Oral Medicine+ Syndrome)という用語を提唱した。古来、中国医学では舌疹として内臓の状態をみることが行われていた。総合診療科や内科でも身体所見として口腔内の診察は必須である。

現在、口腔内科と皮膚科(おらほの)領域を中心にオラドロームについての認識を広めるキャンペーン活動を行っている。「おらほのオラドローム」として学会プログラムに書いたのはいいが、思わぬ障害もあった。共同演者である神部教授から「先生、おらほ……って何ですか?ネットで調べたら東北弁らしいとわかりましたが」と直前に質問があった。診療科の垣根の前に、方言の壁が立ちふさがってしまった。ともあれ、めげずに、口腔病変から全身性疾患を探るという夢、いわばオラドロームならぬオラドリームをさらに膨らませていきたいと思っている。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top