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大顆粒リンパ球増多症の経過は?

No.4931 (2018年10月27日発行) P.60

石田文宏 (信州大学医学部保健学科検査技術科学教授)

登録日: 2018-10-29

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大顆粒リンパ球増多症(Tリンパ球,NK細胞のそれぞれ)について以下をご教示下さい。信州大学・石田文宏先生にお願いします。
(1)発熱など何らかの感染症の症状・徴候が記載された症例の頻度。
(2)長い経過の後,EBV(Epstein-Barrウイルス)の陽性化などを契機に,悪性の徴候を示すようになった症例の頻度。EBV陽性化を示さなくとも,悪性化した例の記載があるかどうかも併せて。
(3)無症状のまま長期間経過し,大顆粒リンパ球と想定されてきたものが消失した例の記載はあるか。
(4)T細胞系統およびNK細胞系統のCD7の発現について。

(兵庫県 T)


【回答】

【慢性型では感染症や悪性転化の頻度は高くないが,無症状でも自然消失はしない】

大顆粒リンパ球(large granular lymphocyte:LGL)は一般的には細胞質に3個以上のアズール顆粒を有する赤血球の2倍以上の長径の大リンパ球を指し,末梢血にLGLが2000/μL以上で6カ月以上持続する状態をLGL増多(症)としています。LGLにクローン性が証明される場合は500/μL以上であればLGL増多に含まれます。細胞の免疫形質によりT細胞型ないしはNK細胞型があり,現在の分類では前者をT細胞LGL白血病(T-cell large granular lymphocytic leukemia:T-LGLL),後者をNK細胞慢性リンパ増殖異常症(chronic lymphoproliferative disorders of NK cells:CLPD-NK)と定義しています。

これ以外に,稀ですが,わが国や東アジアには比較的多く生命予後不良であるアグレッシブNK細胞白血病(aggressive NK cell leukemia:AN KL)もLGL増多を呈するため,広義のLGL増多症に含まれます。また,主に小児科領域の疾患で,いわゆる慢性活動性EBV感染症(chronic active Epstein-Barr virus infection:CAEBV)でもT細胞ないしはNK細胞型LGL増多を呈することがあり,感染症との病名ですが実態はリンパ増殖性疾患と理解されています。ANKLとCAEBVではLGL内にEBVゲノムが陽性であり,EBVゲノムを血中ないしは細胞内で検出する検査が有用です(保険適用外)。残念ながら,血清EBV抗体価で関与を推測することは困難です。

ご質問に関して,LGL増多を慢性型のT-LGLLとCLPD-NKおよび急性に経過するANKLも含めるものとしてお答えします。

(1)感染症の症状・徴候の頻度

T-LGLL・CLPD-NKでは欧米の報告によると反復する感染症を2~4割に認め,その多くは好中球減少に伴う皮膚,上気道,肛門周囲等の細菌感染症による,とされています1)。好中球減少はT-LGLL・CLPD-NKに特徴的な合併症で骨髄での骨髄球系細胞の無効造血が主因と考えられます。わが国の例でも好中球減少を2割に伴いますが,感染症を起こす率は低く約1割です。中には敗血症を呈する場合もあります。

また,T-LGLL・CLPD-NKでは好中球減少,赤芽球癆,関節リウマチといった免疫合併症を高率に合併するため,これらの治療として免疫抑制作用のある薬剤(例:シクロスポリン,シクロホスファミド,メトトレキサート等)が長期に使用されることがあり,その場合には有害事象としての感染症・発熱をきたし,生命予後に影響する場合もあります。ANKLでは筆者らの検討では全例に発熱を認め,その多くは腫瘍熱ないしは感染症が原因と考えられました2)

(2)長期経過後,悪性の徴候がみられる頻度

慢性に経過していたLGL増多が急性転化のように臨床的に悪性となった報告例が散見されますが,その数はごく限られています。T-LGLLやCLPD-NKが明確に定義されてからの報告例はT-LGLLからの転化のみのようです。T-LGLL,CLPD-NKともにEBVは陰性であり,経過でEBV陽性となった例の報告は知る範囲ではありません。

以前にはNK細胞型のCLPD-NKとANKLの境界が明瞭でなく,慢性に経過していたNK細胞型のLGL増多の状態から急性増悪したとの例がありましたが,その多くはおそらくANKLと考えられます。CAEBVからANKLへの移行例や,亜急性に経過する間に急性に増悪してくるANKL例が一部にあることも判明してきています。

(3) 無症状のまま長期経過した大顆粒リンパ球の消失例はあるか

ほとんどないと考えられます。LGL増多の原因が明らかである例,たとえば,サイトメガロウイルス感染,チロシンキナーゼ阻害薬のダサチニブ使用に伴う例等では経過や薬剤の中止にてLGL増多が認められなくなる可能性がありますが,これらは通常LGL増多(症)からは除外されます。なお,T-LGLLでLGLの増多が長期間認められているのですが,構成するLGLのクローンが経時的に消長,増加,交代するclonal driftという現象が観察されています。

(4)T細胞系統およびNK細胞系統のCD7の発現

CD7の発現がきちんと検討されている報告は少なく,フローサイトメトリー法での検討で,T-LGLLでは正常なT細胞に比べ8割の症例で陽性であるが発現低下ないしは欠失がある,CLPD-NK(病名は現在の分類による)ではほぼ全例で陰性ないし発現低下との報告があります3)。CD7の発現程度の評価が反応性のT細胞との鑑別に有用と記載されていますが,その後の検証は明らかでありません。ANKLに関しては筆者らの後ろ向きの検討では72%でCD7陽性でした。

【文献】

1) Lamy T, et al:Blood. 2017;129(9):1082-94.

2) Ishida F, et al:Cancer Sci. 2012;103(6):1079-83.

3) Morice WG, et al:Br J Haematol. 2003;120(6): 1026-36.

【回答者】

石田文宏 信州大学医学部保健学科検査技術科学教授

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