◉貧血に遭遇したら,鉄剤を処方する前に,貧血になった理由をカテゴリー別(出血,溶血,造血不全,稀釈)に考えてみる。
◉MCVと網赤血球は鑑別診断に有用である。MCVによる小球性,正球性,大球性の分類に加え,網赤血球数による造血能の評価を行うと,より診断にせまることができる。
◉鉄欠乏性貧血では,原因となる基礎疾患により,経口鉄剤と静注鉄剤の使い分けをする。
◉見逃してはならない貧血には,急性出血,溶血性貧血,悪性腫瘍,血球貪食症候群などに起因する貧血がある。
◉老人性貧血は,軽度から中等度の貧血であることが多いが,ADLを低下させる原因となる。栄養,リハビリテーションなど多職種アプローチが必要である。
貧血とは,血液中の赤血球またはヘモグロビン量が減少した状態を指す。これにより,酸素運搬能力が低下し,全身の組織への酸素供給が不十分となり様々な症状をきたす。主な症状は疲労感,動悸,息切れ,めまい等である。そのほか,網膜症,皮膚障害などの原因にもなる。また,貧血の原因により,粘膜障害,味覚障害,神経障害,血球減少など様々な随伴症状が出現する。貧血の主な原因は,出血,溶血,造血不全,稀釈の4つである。
2024年に改訂されたWHOガイドラインでは貧血の診断と重症度を以下のように定義している(表1)1)。
貧血の分類には,一般的に赤血球恒数が用いられている。赤血球恒数とは,血液中の赤血球の特徴を評価するための数値指標である。赤血球恒数には,平均赤血球体積(MCV),平均赤血球ヘモグロビン量(MCH),平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)の3つがあり,それぞれ以下の計算式によって求められる(図1)2)。
MCVの数値で以下のように貧血を分類する。
•小球性貧血:MCV<80fL
•正球性貧血:MCV 80~100fL
•大球性貧血:MCV>100fL
小球性貧血の主な原因には,①ヘモグロビン産生障害,②赤血球膜蛋白の異常,③銅,亜鉛の欠乏,の3つがある(図2)。
①ヘモグロビン産生障害
ヘモグロビン産生障害は,以下のような要因によって起きる3)〜10)。
•ヘモグロビンは,ヘムと鉄,グロビン鎖によって構成される。しかし,ヘムの合成異常により鉄芽球性貧血をきたす。ヘムの合成異常の原因には,ALA合成酵素異常,ビタミンB6欠乏,鉛中毒,ABCB7トランスポーター異常などがある。
•鉄欠乏:出血,鉄の吸収障害(胃切除,無酸症など),極端な菜食主義などによる栄養障害,悪性腫瘍。
•鉄の利用障害:トランスフェリンの産生低下,慢性炎症・悪性腫瘍・関節リウマチなど膠原病によるヘプシジンの増加など。
•グロビン鎖の合成障害(サラセミア):鎌状赤血球症など異常ヘモグロビン症ではMCVが正常のことも多いため,MCVのみでは判断できない。
②赤血球膜蛋白の異常:遺伝性球状赤血球症では,小球性貧血をきたす。
③銅,亜鉛の欠乏:赤血球造血不全,鉄利用障害を引き起こし,正球性あるいは小球性の貧血をきたす11)12)。
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