編集部から頂いた本連載のテーマは「ネグレクトの子ども─専門医のカルテから」であった。子ども虐待の問題が連日のようにメディアを通して流れていることからもわかるように,子どもを取り巻く養育環境は深刻化の一途をたどっている。子ども虐待を少しでも早期に発見し,適切な介入をすることが今切実に求められている。本誌の主要な読者の一部である内科医や小児科医も子ども虐待を念頭に置くことは日頃の診療をする上で必須な条件となりつつあるということなのであろう。
以前,「ネグレクト(neglect)」は「養育怠慢」あるいは「養育放棄」などと訳されていたが,今では「ネグレクト」としてそのまま用いられることが多い。「子ども虐待対応の手引き」(平成25年8月厚生労働省の改正通知)1) によれば,食事などの身辺の世話や健康や安全への配慮を怠ることに加え,子どもにとって必要な情緒的欲求に応えていないなどの愛情遮断も含まれるようになっている。
医療現場で遭遇するネグレクトとして問題となる事例は,「食事などの身辺の世話や健康や安全への配慮を怠ること」よりも「子どもにとって必要な情緒的欲求に応えていないなどの愛情遮断」を推測させるもののほうが実際には多いのではないか。養育怠慢や養育放棄であれば,診療の場で遭遇する前に何らかの手だてが打たれることが多いとも思われるからである。今や経済的には困窮していないにもかかわらず,親の意向が強く反映し,子どもの思いがないがしろにされていると思われる事例に出会うことはきわめて多い。筆者がこれまでに経験した虐待関連事例はほとんどそのような類いのものである。
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