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不慮の事故死を予防する[先生、ご存知ですか(8)]

No.4927 (2018年09月29日発行) P.65

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2018-09-28

最終更新日: 2018-09-25

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高いQOLを保った毎日を送るためには、衛生状態が良好で疾病が予防され、かつ、安全・安心な社会が形成されていなければなりません。前者の取り組みはhealth promotionであり、後者の取り組みは事故や外因死の予防であるsafety promotionと呼ばれます。今回はsafety promotionに焦点を当てて、重要な点をご紹介します。

正確な原因(死因)究明

第一に、正確な原因を究明することです。事故発生メカニズムを解析し、効果的予防策を講じなければなりません。詳細な事故原因が解明されないことには、事故の効果的予防策が講じられず、同様の原因による事故が繰り返されることになります。どの領域においても、正確な調査や分析に基づく原因究明が重要なのです。

特に、死亡事故では、正確な死因を究明することが、原因究明の第一歩となります。わが国では、事故死すべてに対して解剖が行われるわけではなく、結果的に曖昧な死因がつけられている例があります

例えば、交通事故を例にとります。自動車乗車中に自損事故で運転者が死亡したとします。多くの例では、解剖が行われずに外傷死と診断され、さらに事故原因も運転者本人のヒューマンエラーとして処理されます。しかし、中には運転中の病気発症による突然死例も含まれますが、見逃されてきました。その結果、近年まで運転中の体調変化による事故の実態が把握されず、効果的予防対策を講じることができませんでした。そして、重大事故の発生につながったのです。

わが国において、非犯罪死体に対しては、遺族の承諾が得られなくても必要があれば解剖を実施できる体制になっています。しかし、解剖率が欧米に比べて低く、十分に運用されてはいません。近年、死因の判定に死後CT撮影が活用されています。しかし、死後のCTで死因が正確に判断できるのは3割程度です。したがって、決して解剖に代わるものではありません

死因究明をはじめとした正確な原因究明が将来の事故予防につながることを、先ず強調させていただきます。

ハインリッヒの法則に学ぶ

次に、ニアミス例(ヒヤリ・ハット例)を収集して詳細に分析することです。1件の重大事故の背景には30件の小事故があり、さらに300件の事故につながらなかったニアミス例があると言われています(ハインリッヒの法則)。死亡事故1例の背景には300例のニアミス例があることから、これらを詳細に分析することで、その予防対策を講じる必要があります。予防対策を立案(plan)して実行(do)し、さらに効果を確認(check)して改善(act)するといったPDCAサイクルを廻し続けることも重要です。

家庭内死亡事故においても

残念ながら、乳児が家庭内で事故死することがあります。事故の状況や死因を詳細に調べると、睡眠時の環境が悪く、顔面に毛布が被って窒息した例などがありました。安易に乳児の死亡原因を「乳幼児突然死症候群」などとすれば、事故の予防対策は講じられません。家庭内事故でも原因を究明することが重要です。私は、このような事故でお子さんを亡くされた方に対しても、すべてを詳細に説明します。そして、次に同じような事故が起きないように、環境の改善をお願いしています。

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