株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

第1回:開業前に考えていたこと

登録日:
2024-07-03
最終更新日:
2024-07-09

私は,2017年4月に神奈川県綾瀬市に「きくち総合診療クリニック」を開業しました。

現在は,綾瀬市8万4000人のうち,3万8000人の方に受診・通院していただいており,地域医療を支えるかかりつけ医として,総合診療が認知されていると実感しています。本日は,私が開業前に悩んだこと,行動したことをお話ししたいと思います。

勤務医に疑問,開業を決意

私は外科医・救急医として12年間勤務医をしていました。総合病院に勤務していると,病気になった患者さんを診ることになります。救急をやっていると,もっと早く治療できたであろうと思う患者さんがたくさん運ばれてきました。普段から生活習慣を指導していれば高血圧も治療でき,脳出血にならなくてすむ方や,1週間腹痛が続いてかかりつけ医を受診したけれど整腸剤だけ処方されて,腹膜炎を発症していた方など,予防と早期発見が行き届いていない現実を毎日感じていました。そこで勤務医を辞めて,1年弱アルバイト生活を送りました。この1年弱のアルバイト生活中では,今後の自分の医師としての在り方を考えていました。そこで決心したのは,「いつでも,何でも,誰でもまず診る」本当のかかりつけ医になろうということでした。

開業コンサルタントの探し方

一般的に,開業を決意してから開業まで,1年ぐらいかかると言われています。それまで総合診療を勉強するつもりで,総合診療科を立ち上げる病院で1年間勤務しました。まず開業するときは,開業コンサルタントを探すところから始めます。医師は何もわからないので,信頼できるコンサルタントとの出会いが今後のことを大きく左右します。一番良いのは,自分でネット検索して,アポイントをとって,会って話すことです。ビジネスで一番大事なのは相性です。知り合いの方から紹介されたコンサルタントでも,自分には合わないかもしれません。一度食事するのも良いでしょう。話があまりにもうまくいきすぎるときは,騙されていることもありますので,しっかりとメモをとり,すぐに返事をするのは避けたほうが無難だと思います。逆に疑い深くなってしまうと,話が進まないので,どこかで覚悟を決めて進むことも大事になります。大手の会社でも個人のコンサルタントでも,どっちでも良いと思いますが,担当の方と自分の相性を一番大事にしてください。

私のやりたいことは,「いつでも,何でも,誰でもまず診る」という診療でした。私は数人のコンサルタントとお会いしましたが,総合診療をわかってくれるコンサルタントは1人しかいませんでした。また,保健所に届け出をする際も総合診療クリニックはダメと言われ,標榜も3つまでと言われました。しかし,話をさせていただき,今のきくち総合診療クリニックの許可をいただき,標榜も可能なものは全部出しています(そもそも標榜科目はあってないようなもので,私は臓器別では考えていませんでしたが)。

全部まとめて診る,の始まり

私の心配は,地域の方に総合診療クリニックを理解していただけるかどうかでした。「結局,総合診療って何を診てくれるの?」という声が聞こえてきましたが,私には自信がありました。「高齢者はいくつも病気を持っている,それを全部まとめて診てあげよう,いざというときに飛び込めるクリニックの医師が本当のかかりつけ医なんだ」と,軸がぶれることはありませんでした。

次回は,なぜこれだけ患者さんが集まるのかを,お話ししたいと思います。

菊池 大和/きくち やまと (きくち総合診療クリニック院長)
2004年福島県立医科大学卒業。09年湘南東部総合病院外科科長/救急センター長,16年座間総合病院総合診療科,17年開業。

関連記事・論文

もっと見る

page top