No.4764 (2015年08月15日発行) P.75
仲野 徹 (大阪大学病理学教授)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-02-14
いつか紹介しようと思いながら延び延びになっている本がある。上下二巻と長いけれど、ぜひこの夏休みの課題図書として読んでいただけたら、と紹介したい。
その本は『病の皇帝「がん」に挑む─人類4000年の苦闘』だ。原著“The Emperor of All Maladies”は2010年に発刊、翌年にピューリッツァー賞に輝いている。内容は、タイトルのとおり、がんに挑み続ける人類の長く終わりのない闘い。
その歴史は古代エジプトにまで遡ることができる。しかし、科学的な知見に基づいた実質的な治療が始まったのは20世紀に入ってからだ。そして、分子生物学の進歩は、がんの発症機序を明らかにしてきた。
著者はシッダールタ・ムカジー。名前からわかるようにインド出身のハーバード大学の腫瘍科医師である。よくこれだけの内容を調べ上げ、正確かつ面白く書けたものだと、一読して舌を巻いた。
翻訳が出る前、偶然にこの本の原著を見つけ、電子ブックで読んだ。英文でさえ一気に読めてまうほどの面白さだった。なんと、英文の電子版なら千円以下。どう考えても安すぎる。日本語版は医師による翻訳で、とてもこなれていて読みやすい。
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