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蟯虫症[私の治療]

No.5074 (2021年07月24日発行) P.37

濱野真二郎 (長崎大学熱帯医学研究所寄生虫学分野教授)

登録日: 2021-07-25

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  • 蟯虫(Enterobius vermicularis)は寒冷地から温暖地まで世界中に分布し,およそ10億人が感染している。主としてヒトの盲腸に寄生し,幼小児に多くみられる寄生虫である。成虫はオス8~13mm,メス2~5mmで,メス成虫は夜間に腸管を下降し,早朝に肛門周囲や会陰部に産卵する。これら虫卵では数時間以内に感染幼虫が形成される。感染は幼虫包蔵卵の経口摂取による。ヒトとヒトの間で伝播し,中間宿主を必要としない。

    不顕性感染が多い。時に肛門周囲や会陰部に強いかゆみを生じ,小児では夜間の睡眠障害のために,眠気,注意力散漫,記憶力の低下などが起こる。肛門周囲や会陰部を搔くことで手指や下着・寝具に虫卵が付着し,生活環境が汚染される。手指に付着した虫卵を直接,あるいは居住環境中に落下した虫卵を塵埃とともに経口摂取して感染することから,家族内・施設内感染や再感染が起こりやすい。肛門周囲の搔破による細菌の二次感染も生じる。盲腸に寄生している成虫の虫垂迷入による虫垂炎が生じることもあり,女性の場合では肛門外に出たメス成虫が腟・子宮・卵管・腹腔へ迷入することもある。

    学校保健安全法に基づいて実施されてきた蟯虫卵検査では,東京都内での陽性率が2014年には0.08%まで低下し,この状況を受けて蟯虫卵検査は2016年4月から必須項目から除外され,2015年度限りで廃止されることになった。しかし現在でも蟯虫症患者数は年間2万8000人と推定され,国内で最も多い寄生蠕虫症と考えられる。

    ▶診断のポイント

    【検査・診断】

    蟯虫の産卵は体外で起こるため,糞便検査では虫卵は検出できない。蟯虫は早朝に肛門周囲に産卵するため,そこに付着した虫卵をセロハンテープの粘着性を利用して採取する肛囲検査法が有用である。起床直後の排便前に実施するが,検出率向上のため,3日連続して実施することが望ましい。蟯虫卵は大きさ50×25μmで左右非対称の「柿の種」状の形態を示す。

    蟯虫卵検査が学校健診での必須項目から除外された結果,大手製造元による肛囲検査用セロハンテープの製造・供給が中止され,検査会社での検査継続が困難となっているが,文房具である透明なセロハンテープを用いることで肛囲検査は可能である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    駆虫薬は成虫には有効であるが幼虫には無効であることから,初回治療時点で幼虫として生存する蟯虫が成虫となる2週間後に再度同じ処方を繰り返すことで治療効果を高める。用いられるいずれの薬剤も副作用を引き起こす可能性があるので,その際は適切な対応が必要となる。

    感染者との生活空間の共有,あるいは生活環境中に残存する感染性を有する虫卵などは感染・再感染のリスクとなる。感染リスクを低減するためには,生活空間を共有する全員の検査・治療を一斉に行うとともに,清掃と手指の清潔保持の徹底,下着・寝具への日光照射などが推奨される。

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