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医療の発展と医療政策[提言]

No.4982 (2019年10月19日発行) P.60

加藤高明 (さくら路クリニック院長)

登録日: 2019-10-20

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  • 医療の目的は,「人々を健康にすること」である。健康とは,肉体的にも精神的にも,そして社会的にも,すべてが満たされた状態にあることをいう(世界保健機関憲章)1)。そして,到達可能な最高水準の身体および精神の健康を享受する権利(健康権)として位置づけられた(1976年,社会権規約第12条;国際人権規約)2)。健康権は,国際的に遵守すべき標準的権利である。

    1 目的

    医療政策の誤りが,健康権を侵害していることを提言する。

    2 方法

    さくら路クリニックのペインクリニック医療において検証する。

    3 結果

    当院のペインクリニック医療は,整形外科における経口薬でよくならないが,手術を必要としない領域の患者を対象とした,疼痛に対する対症療法ではなく,神経やその周囲の障害部位に対する直接的な治療法(神経ブロック)を主体としている。

    たとえば,脊柱管狭窄における神経障害に対しては,神経の回復と圧迫の軽減を目的として,定期的な硬膜外ブロックによって治療している。また,日常的によくみられる,神経障害が引き起こす病態として,股関節痛,膝関節炎,頸椎症を伴う小脳性めまいがある。股関節痛(変形を認めない)は腰椎L3,L4の神経障害によるもので,筋硬化・挫傷により放置すると周囲に炎症が波及していく。膝関節炎は坐骨S1神経障害による後十字靱帯の硬化が主な要因となって関節面のずれによって発症する。小脳性めまいは,頸髄上部の神経障害が小脳脚まで及ぶことで生じる。これらの病態では,神経障害(神経ブロック)の治療が必要となる。ペインクリニック医療が整形外科治療と内容がまったく異なるために,整形外科治療に代替治療法がないように,上記のような病態ではペインクリニック医療以外には代替治療法がない。このような患者では,ペインクリニック医療を受けなければ,長年にわたって多くの医療機関を受診することになる。

    当院では,千葉県国民健康保険団体連合会のレセプト査定〔頸部神経根ブロック・硬膜外ブロック45%(333/740回),腰部硬膜外ブロック20%(353/1746回),2018年〕により,今後のペインクリニック医療の継続が困難な状況となった。このため,患者から19年1月に,当院のペインクリニック医療の継続を求めて90通の意見書が出された(表1)。内容は,「健康に必要な医療を受ける権利」の要求であり,「生きる権利」を失うことの重大性が記されている。そして,19年3月26日に当院にて,千葉県議会議員,松戸市議会議員,そして患者57名において,千葉県国保連合会の審査のあり方の問題に対して検討された。

    一方,千葉県保険医協会では,千葉県国保連合会の神経ブロックの査定について医療機関からの相談が増え,そして中には現場の実態を無視した査定が散見されるとして,19年2月に,千葉県内の医療機関宛に神経ブロック査定状況のアンケート調査を開始し,この結果から千葉県国保連合会に対して審査の適正化を求めた3)

    このような経緯から,現在はペインクリニック医療が千葉県国保連合会に認められ,当院の査定率は0%となった。

    残り2,600文字あります

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