株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

牛乳アレルギーを持つ児への対応

No.4685 (2014年02月08日発行) P.66

木村光明 (静岡県立子ども病院免疫アレルギー科科長)

登録日: 2014-02-08

最終更新日: 2017-09-21

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

牛乳アレルギーを持つ子どもへの食事や日常生活上での留意点,治療について。
(東京都 H)

【A】

牛乳アレルギーでは,正確に診断し,可能な範囲で摂取していくことが基本方針である。ただし,重篤な症状が出る児では厳密に摂取を制限し,エピペンも準備する

牛乳アレルギーの症状

食物アレルギーの中で,牛乳アレルギーは鶏卵アレルギーに次いで多い疾患である1)。また症状は,蕁麻疹などの皮膚症状が最も多く,次いで咳や呼吸困難,嘔吐,腹痛,下痢などである1)。そして最も重い反応はアナフィラキシーショックである。

上記症状が強くなるのに加え,血圧が低下し,ショック状態に陥る。アナフィラキシーショックは非常に稀ではあるが,速やかに治療しないと心肺停止に至り,死亡することもある。

牛乳アレルギーの診断

牛乳アレルギーの診断については,血液中の特殊な蛋白質であるIgE抗体を測定することで,ある程度の見当をつけることができる。この時,牛乳と結合する性質を持つIgE抗体の量が増えている場合は,牛乳アレルギーが発生しやすくなる。ただ,この測定法の精度には限界があるので,確実な診断を下すためには食物負荷試験を行う必要がある。

食物負荷試験では,実際に牛乳を飲んでもらい,アレルギー反応が起きるか否かを観察する。その際,少量から始めて段階的に増やすなど,なるべく反応を軽くする工夫をするとともに,どのような反応が起きても確実に治療できる技術が必要なので,経験豊富なスタッフと設備の整った施設で行う。

食物負荷試験により,牛乳アレルギーの診断だけでなく,どの程度の量の牛乳を摂取できるか,逆に言えばどの程度の摂取量までに制限すればよいのかも分かるので,それに基づいて管理方針を立てる。

アレルギー症状の治療

①治療薬
蕁麻疹などの軽い反応の治療には,抗ヒスタミン薬を使用する。アナフィラキシーショックか,それに近い症状の場合は,効果の強いエピネフリンという薬を注射する。これを自己注射できるようにしたエピペンは,使用法を間違うと,かえって健康を損なう可能性もあるため,注射の手技とタイミングを確実にマスターする必要がある。

②治療用ミルク
乳児の場合,牛乳アレルギーがあることが分かっていても,ミルクを使用せざるを得ない場合がある。その場合はアレルギー活性を低下させた治療用のミルク(ニューMA–1など)を使用する。大豆アレルギーがない場合は大豆調整粉乳(ボンラクト)を使用することもできる。

③減感作療法
多くの患者では,成長するにつれ症状は軽快し,牛乳制限を解除できる。しかし,一部の患者は年長になっても強い症状が残ることがある。このような患者には,減感作療法が有効である場合がある。減感作療法は,牛乳の摂取量を微量から段階的に増やしていき,免疫寛容(症状が出なくなる状態)を誘導するものである。この時,当然ながらアレルギー症状が出るが,症状を治療しながら増量する。

これについては,まだ効果と安全性が十分に確認されておらず,現在は一部の専門的な医療機関でのみ試験的に実施されている。

食事や日常生活上の留意点

牛乳を含む食品には,それを表示する義務がある。必ず表示を確認して食品を選んでいただきたい。ただ,店頭販売される食品や包装されていない食品,表示するスペースのない小さな包装の食品には表示義務がないことから,牛乳を含んでいても表示されていない場合もあるため要注意である。また外食の際は,メニューにアレルギー成分を表示している店を利用するようにしていただきたい。

児を親戚や知人に預ける場合は,牛乳アレルギーがあることをきちんと伝えておく必要がある。学校や保育所では事故を防ぐため,「生活管理指導表」という書類を提出する。この書類には,食物アレルギーの病型や原因食品,診断根拠,治療薬,学校生活での制限の要否などの情報が含まれている。

新生児・乳児消化管アレルギー

新生児・乳児消化管アレルギーは,乳児に時々見られるもので,ミルクを飲んだ後,嘔吐や血便,下痢などの消化管症状が発生する。反応に蕁麻疹などの皮膚症状が見られることは稀である。

アレルギー検査では,IgE抗体は陰性であるが,リンパ球の反応性を調べるアレルゲン特異的リンパ球刺激試験(allergen–specific lymphocyte stimulation test;ALST)という検査で陽性になる。経過は良好で,1〜2年でほとんどの児は牛乳制限を解除できる。

【文 献】

1)日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会:食物アレルギー診療ガイドライン2012. 協和企画, 2011, p16.

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

関連物件情報

もっと見る

page top