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(1)細径内視鏡のNBIによる新しい胃癌診断 [特集:新しい経鼻内視鏡による内視鏡診断のパラダイムシフト]

No.4767 (2015年09月05日発行) P.20

柳澤京介 (東京医科大学病院内視鏡センター)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-13

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  • 抗血栓薬服用者に対しては出血を最小限に抑える生検の工夫が必要である

    細径内視鏡は技術進歩により完成型へ

    細径内視鏡を用いた内視鏡診断の新たなステージへ

    1. 生検での出血性偶発症の発症リスクと抗血栓薬の休薬

    1 ほぼ無条件であった抗血栓薬の休薬

    内視鏡検査や内視鏡治療は消化管出血の危険を伴うものであり,抗血栓薬の休薬をせずに生検を行った場合には,より多くの出血が起こる可能性は避けられない。
    近年,高齢者人口の増加に伴い血栓症を予防する目的に抗血栓薬を内服している割合が急増しているが,同時に内視鏡による生検で出血性偶発症の発症リスクを高めてしまう。
    実際,内視鏡による生検後に大量出血をまねいたことに対する訴訟も発生しており,これまで出血の危険性を可能な限り抑えることが重要視され,内視鏡検査前には抗血栓薬の一定期間の休薬が望ましいという考えが基本となっていた。さらに抗血栓薬を内服していたがために内視鏡による生検を禁忌とされ,生検が必要とされる粘膜の変化を認めた場合には,抗血栓薬を一定期間休薬した後に再度内視鏡検査を行う必要があった。
    抗血栓薬の一定期間の休薬を経て再度内視鏡検査を行った結果,悪性を疑う粘膜変化の局在がよくわからなくなる場合もあり,生検に苦慮し診断が大幅に遅れる危険性もあった。抗血栓薬の内服継続は出血性偶発症の発症リスク増加だけでなく,病変の確定診断の不正確さや診断の遅れが患者の不利益につながることが危惧されていた。そのため,内視鏡検査前の抗血栓薬の休薬はほぼ無条件に行われていたという経緯がある。
    しかしながら,抗血栓薬の休薬期間中に血栓症を発症し重篤な状態に陥るケースも少なくないことが明らかになった1)2)。血栓症については,抗血栓薬の休薬には十分に注意を要すると痛感した事例が当院でも発生しており,ほかの施設でも休薬中に血栓症を発症した経験があるかもしれない。

    2 血栓症発症リスクをより重視

    2012年に改訂された『抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン』3)では,重篤度の面から出血のリスクより血栓症発症のリスクが従来よりも重要視された。
    改訂前と大きく異なる点は,内視鏡による観察時あるいは出血低危険度の内視鏡手技の場合,抗血小板薬・抗凝固薬ともに単剤であれば休薬することなく内視鏡検査が可能と変更されたことである(表1)。
    訴訟の場において厚生労働省や学会で定められた診療ガイドラインは,実際行われた医療行為が適切であったか否かを判断する医療水準の判断の基礎となるものでもある4)
    医療事故訴訟が増えている昨今,多くの医療機関が改訂された『抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン』に基づいて内視鏡検査を行っていると思われる。
    アスピリンを含んだ非ステロイド性抗炎症薬の継続が生検後の出血を増加させないとの欧米での後ろ向き臨床試験の報告5)や,アスピリンを含んだ抗血栓薬の継続が生検後の出血を増加させないとの日本の報告6)7)がある。また,日本の多施設の前向き研究では症例数は少ないものの,抗血栓薬の継続が生検による出血性偶発症を増加させるとの成績は示されていない8)
    しかし,実験ではあるがアスピリンやチエノピリジン誘導体は生検後の出血時間を延長させるとの報告9)10)があるため,抗血栓薬の継続時での生検においては,出血を最小限に抑えるよう慎重な対応が求められる。
    最も重要なことは,生検後の止血を確認することであり,止血を確認しないまま内視鏡検査を終了することは避けるべきである。

    3 生検時の工夫

    抗血栓薬の内服継続下での内視鏡検査において偶発的出血の危険を回避するためには,内視鏡による生検施行時の工夫も大切である。たとえば必要最小限の生検にとどめること,止血が得られていることを確認して内視鏡を抜去すること,止血が得られない場合には鉗子による圧迫,局所止血剤の散布,クリッピングや組織凝固などの止血処置を行う必要がある。
    さらに,病理診断のためには十分な大きさの検体を採取する必要があるが,筆者らは生検後の出血を考慮し細径内視鏡による検査においても生検鉗子の開口度を少し狭めて生検を行う工夫を行っている。細径内視鏡の生検鉗子の開口度を少し狭めて生検を行っても採取した組織片は病理診断には十分量であり,病理診断において正確性が失われることは認めていない。また,プロトンポンプ阻害薬を投与することも生検後の出血性偶発症を予防するための工夫の1つである。
    現在,経鼻挿入による上部内視鏡検査のニーズが多いことから,細径内視鏡のスコープのみで検査を行っている施設も多いと思われる。細径内視鏡のスコープで可能な止血術は鉗子での局所圧迫や局所止血剤の散布のみで,クリップによる止血や組織凝固による止血方法は鉗子口が狭いため専用鉗子が挿入できず不可能である。また,生検後の出血に24時間対応できるような緊急内視鏡の体制が整っていない施設では,抗血栓薬の内服継続下での生検はできるだけ避けるべきであると注意を促す意見も見受けられる。
    そのため,細径内視鏡のスコープでのみ検査を行っている施設では,抗血栓薬の内服継続下の生検に対して以前より消極的になったという先生方や,できるだけ生検を避けたいと考えながら検査を行っている先生方も多いと思われる。
    抗血栓薬を内服している患者の不利益にならない範囲で生検を可能な限り減らすには内視鏡診断が最も重要で,正確な内視鏡診断が不必要な生検を減らし,さらには生検後の出血性偶発症の減少につながると思われる。このためには内視鏡診断の向上につながる内視鏡医の教育と細径内視鏡の技術革新が必要不可欠である。

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