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虚血性大腸炎[私の治療]

No.5267 (2025年04月05日発行) P.41

猿田雅之 (東京慈恵会医科大学内科学講座消化器・肝臓内科主任教授)

登録日: 2025-04-06

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  • 虚血性大腸炎は,主幹動静脈に明らかな閉塞を伴わない,腸管の可逆的な微小循環障害により発症する一過性かつ限局性の大腸粘膜虚血性病変である1)。下腸間膜動脈からの左結腸動脈支配領域は,末梢での吻合枝が少なく阻血に陥りやすいため,下行結腸からS状結腸に好発し70~80%を占める2)
    臨床経過により,一過性型,狭窄型,壊疽型の3型に分類される2)。血管因子と腸管因子が関連して腸粘膜の血流低下を引き起こし,虚血に至り発症すると想定されている。
    原因には,微小血管病変(血管炎,膠原病,糖尿病),静脈病変(静脈炎,静脈硬化,血栓,塞栓),動脈病変(粥状硬化,血栓,塞栓),低循環状態(脱水,出血,心疾患),便秘,いきみ,外傷,細菌感染,絞扼(腸捻転,重積,ヘルニア嵌頓),各種薬剤(下剤や内視鏡検査の前処置薬,経口避妊薬等)などが挙げられ,これらの要因が複合して発症する。

    ▶診断のポイント

    基礎疾患や便秘症などがあり,左側腹部から突然の下腹部痛と圧痛が出現して,その後に血便・下痢を認める場合,虚血性大腸炎を疑う。一般的に中高年の女性に多いが,若年者や男性に生じることもあり注意が必要である。

    問診を詳細に行うと,症状の発現の順番がわかり,診断の助けとなるだけでなく,脱水や高度の便秘の存在や,内視鏡検査時の下剤使用など,発症因子も推定できることが多い。

    診断には,典型的な臨床症状に加え,抗菌薬などの使用歴がなく,便培養を確認し感染も否定することが大切で,さらに各種検査では以下の特徴を認める2)

    採血検査:白血球数やCRPの上昇を認めるが軽微なことも多く,貧血の進行も血便症状に比べてわずかなことが多い。壊疽型や重症例では,LDH,CPKなどの細胞傷害性逸脱酵素の上昇やアシドーシスを呈する。

    腹部CT検査:腸管の区域性の肥厚や浮腫を認める。重症や壊疽型を疑う場合は造影CT検査を行い,造影不良域や穿孔など合併症の有無を評価する。

    腹部超音波検査:粘膜下層の壁肥厚と浮腫によりエコーレベル低下をきたし,壁層構造が通常より不明瞭化する。

    注腸X線検査:急性期は,粘膜・粘膜下の浮腫や出血による拇指圧痕像(thumb printing),縦走潰瘍などを認める。慢性期は,一過性型では正常〜縦走潰瘍瘢痕,狭窄型では平滑で左右対称な管腔狭小化,偽憩室形成,縦走潰瘍瘢痕を認める。

    内視鏡検査:急性期は,境界明瞭な発赤,浮腫,出血,縦走潰瘍を認める。慢性期は,一過性型では正常~縦走潰瘍瘢痕,狭窄型では管腔狭小化,縦走潰瘍瘢痕を認める。

    (注)内視鏡検査は診断に有用で,腸管壊死が示唆される場合以外は施行することを勧めるが,急性期は腸管内圧上昇を避けるために前処置なしで慎重に行う。また,循環障害が強い症例では,腸管粘膜が暗赤色を呈することが多く,その際は無理な口側の内視鏡挿入は避ける。

    生検組織検査:急性期は,粘膜上皮の脱落・変性を表す立ち枯れ像(ghost like appearance)や粘膜下層の出血と浮腫,毛細血管のうっ血,小血管のフィブリン血栓などを認め,一過性型や狭窄型では腸管壁の壊死は粘膜に限局するが,壊疽型では全層に波及する。慢性期は,粘膜下層の線維化,担鉄細胞を認める。

    予後因子として,男性,WBC>1万5000/μL,Hb<12g/dL,血清Na<136mEq/L(mmol/L),BUN>20mg/dL,LDH>350U/L,低血圧(収縮期血圧<90mmHg),内視鏡で潰瘍を認める例,頻脈(心拍数>100回/分),直腸からの出血のない腹痛,の該当項目を計測し,0を軽症,1~3を中等症,4以上あるいは腹膜刺激症状などを認める場合を重症と分類する3)

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