認知症の診断過程は軽度認知障害(MCI)を含めた前認知症段階から各種認知症の確定診断に至るまでに様々な概念が存在し,非常に複雑になっている
当科では一般に周知された認知機能検査を用いて非認知症の受診者を健常群,認知症以降の低リスク群,高リスク群に分類し経過を観察している
認知機能検査で健常群,もしくは低リスク群に分類される受診者の中で側頭葉内側部の強い萎縮がみられる群を乖離群とし,2年間の経過観察で乖離群の半数はアルツハイマー病(AD)に移行していた
わが国は超高齢社会に突入し,2020年以降,65歳以上の人口が総人口の3割を超えると予想されている。認知症患者は2012年には約462万人存在し,軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)1)の有病者は約400万人存在すると推計され,今後は高齢者人口に比例し,さらに増加すると考えられる。認知症対策は医療介護のみならず,わが国の社会・経済にとっても重要な課題である。本稿では,アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)2)の早期発見,MCIとの関連について当科での取り組みを中心に述べる。
当大学病院では2003年に当研究所を中心に「もの忘れ外来」を内科総合外来に開設し,地域での認知症対策として,06年からは地域での「もの忘れ予防検診」を実施している。認知症の診断には,確定診断として神経病理学的診断が必要とされ,認知機能障害をきたす複数の疾患の中から特異的な所見を見出し,鑑別する総合的な診断過程が必要とされている。しかし,神経病理学的診断を含めた正確な鑑別診断を前提とする認知症診療は,診断から実際の治療,介護導入などに至るまで長い時間とプロセスが必要となる。現在,早期の医療的対応が必要な認知症患者,認知症予備軍の人々が増加の一途をたどる中,すべての症例に詳細な診断を必須条件として掲げることは現実的にきわめて困難である。
さらに現在,認知症には至らないが認知機能の低下を示すMCIの概念が提唱されているが,MCIに関しての明確な神経病理学的概念や検査,尺度の提唱はなされておらず,おおよその診断基準を参考にした評価がなされている。認知症の診断では前認知症段階から確定診断までに様々な概念が存在し,非常に複雑になっている。
当科のもの忘れ外来,地域でのもの忘れ予防検診では,認知症の早期発見・治療のための臨床診断の重要性を考慮し,認知症の前駆状態を段階的に評価できる認知機能検査,画像所見,精神生理学的指標などを検討している。
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