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腸チフスを疑う臨床状況,診断・治療のポイント【発熱患者には2カ月以内の海外渡航歴を聴取。疑い例には培養検査を繰り返し施行】

No.4841 (2017年02月04日発行) P.58

谷崎隆太郎 (三重大学大学院名張地域医療学講座講師/名張市立病院総合診療科)

的野多加志 (国立感染症研究所細菌第一部)

登録日: 2017-02-01

最終更新日: 2017-01-31

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  • 腸チフスは海外渡航に関連する感染症として知られていますが,一方で2014年,東京都においては海外渡航歴のない人々の間でも小流行がみられました。どのような臨床状況において腸チフスを疑えばよいのか,また,腸チフスの診断・治療のポイントについて,国立感染症研究所・的野多加志先生のご回答をお願いします。

    【質問者】

    谷崎隆太郎 三重大学大学院名張地域医療学講座講師/名張市立病院総合診療科


    【回答】

    腸チフス・パラチフスはチフス菌・パラチフスA菌によって引き起こされる全身性発熱疾患です。これらの菌はヒトに特異的な病原体で,汚染された水や食品を介して感染・伝播します。そのため,衛生環境の整備が未発達であるほど,感染が拡大します。わが国でも以前は多くの患者が発生し,1969年までは腸チフスワクチンが定期接種に含まれていました。

    しかし,年々国内感染例は減少し,近年では年間40~100例の報告のうち,80%が海外で感染した輸入感染症例です。感染地域は特に南アジア(60%)が多く,ついで東南アジア(30%)となっています。中でもミャンマーからの輸入感染症例が近年増加傾向です。この疾患は体内に菌が侵入した後,7~14日間(報告によっては3~60日間)の潜伏期間を経て発症します。そのため,2カ月以内に海外(特に南アジア地域)への渡航歴のある発熱患者に対しては本疾患を疑うことが診断への第一歩となります。

    症状は発熱に加え,頭痛(38~94%),関節痛(20~76%),咳嗽(21~45%),下痢(49~55%),便秘(30~40%),腹痛(30~40%)と疾患特異的な所見に乏しく,症状のみでの鑑別は困難です。また,古典的3主徴と言われる比較的徐脈,バラ疹,脾腫の中で,比較的徐脈や脾腫はマラリアなどの他の輸入感染症にもみられるため,特異性に欠けます。さらに,バラ疹は発症後2週間程度で出現する所見のため,診断時には存在しないことが多いのです(輸入感染症例では4~6%程度)。

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