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(1)タンデムマス法を導入した新生児マススクリーニングの新しい体制 [特集:新生児マススクリーニングの今]

No.4838 (2017年01月14日発行) P.26

山口清次 (島根大学医学部小児科特任教授)

登録日: 2017-01-13

最終更新日: 2017-01-11

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  • 新生児マススクリーニング(NBS)が1977年より全国実施され,成果を上げている。2014年度からタンデムマス(TMS)法が導入されて対象疾患は著しく拡大した

    TMS法導入を機に,①対象疾患が稀少疾患であり専門家が不足,②専門家のいる地区といない地区の治療成績格差,③確定診断のための特殊な検査と施設,④TMS機器の精度管理,⑤長期予後の評価体制,⑥対象疾患に対する治療用特殊ミルクの供給体制などの課題が明らかになった

    以上の課題をふまえて,自治体から委託を受けたNPO法人が窓口となって,TMSコンサルテーションセンター,TMS精度管理センター,NBS関連部署と患者家族を結ぶコーディネートセンターの機能を持つ活動が行われている

    NBSはスクリーニングであって「診断」ではない。偽陽性例も少なくない

    1. タンデムマス(TMS)法の導入によって新たな課題が顕在化

    新生児マススクリーニング(newborn screening:NBS)は,放置するとやがて障害が発生するような代謝異常症を発症前に発見し,治療介入することで障害発生を防止する事業である。事業を導入している欧米先進国では,NBSは「大変優良な公衆衛生事業」であるとされている1)。かつて小児科領域のトピックスであった感染症や栄養の問題を克服した国では,NBSや予防接種などを含む予防医学,遺伝医学,原因不明の疾患の克服が大きなテーマとなっている。
    わが国ではNBSが1977年より全国で実施されているが,2014(平成26)年度より従来のガスリー法に代わる新しい検査法のタンデムマス(tandem mass spectrometry:TMS)法が導入され,対象疾患が飛躍的に拡大した。これに伴いNBSの体制も変わり,解決すべき課題も顕在化してきた。新しい体制の課題および今後考えられる課題について述べたい。

    2. 新生児マススクリーニング(NBS)の歴史

    わが国のNBSの歴史的背景2)3)を表1に示す。1960年頃に米国で「ガスリー法」が発明された。わが国でも1966年に厚生省研究班が組織されて試験研究が始められ,1977年よりアジアで最も早く全国で実施された。その後,先天性甲状腺機能低下症,先天性副腎過形成症が対象疾患に追加され,最近まで6疾患を対象にNBS事業が行われていた(表2)。





    1990年代に米国において,1回の検査で多くの疾患を検査できるTMS法が開発され,世界的に注目されるようになった。わが国では1997年より福井大学で試験研究が行われ,2004年から厚生労働省科学研究費の補助を受けて研究班が組織された。そして試験研究の結果をふまえて,2011年にTMS法導入に関する厚生労働省母子保健課長通達が出され,2014年度よりTMS法を導入したNBS(TMSスクリーニング)が全国で実施されることとなった。同時にガスリー法は廃止された。

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