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術衣と手術室更衣室に思う [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.68

寺地敏郎 (日本泌尿器内視鏡学会理事長、東海大学医学部外科学系泌尿器科教授)

登録日: 2017-01-03

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40代前半で京大病院泌尿器科の病棟医長をしていた頃の話である。手術中に病棟から患者の心停止で呼ばれた。更衣室から術衣のまま走って出ようとすると、ちょうど入れ替わりに入ってきた整形外科医の病院長に、「こら! その格好でどこへ行く!」と怒鳴られた。「患者さんが心停止なんです!」「言い訳するな!」そのときは後で謝ろうと、そのまま走り出た。あちらにはあちらの、こちらにはこちらの言い分がある。しかし、それまで術衣で病院内を歩くことの異常さに思い及ばなかったのは事実であり、このとき指摘されて初めて考える機会を得た。

術衣で病院内を歩いている医師、食堂に入る医師、診察をする医師を、患者さんや家族の方々はどう見ているだろうか。テレビの中のER医師が術衣に似たユニホームで足早に歩く姿は頼もしい。しかし、現実の自分の傍の術衣の見知らぬ医師は、やはりあちらから見ればあまり気持ちのよいものではないだろう。手術のときの血液とか付いてないかな?などと。こちらはどうか?手術室から術衣のまま出歩く医師に、患者・家族の不快に思い及ばぬ驕りはないか? 「忙しい」のこちらの理屈は、あちらには通用しない。ましてや食事では、である。

手術室更衣室は私にとって、外科医としての仕事着に着替える祈りの場でもある。手術はどんなに注意しても思わぬ困難に出くわすこともあれば合併症が起きることもある。どんな職業でも、仕事着に着替えた瞬間、よし!と気合が入る、ように見える。私も術衣に着替えると、もちろん気合は入るが同時に、手術も術後も何事もなく上手くいってくれと祈る気持ちになる。終われば上手くいったことを感謝し、術衣を脱衣カゴに戻す。それで1つの手術が終わる。次の手術はまた同じく更衣から始まる。手術に向けての更衣の場は、祈りの場にふさわしい空間であって欲しい。

清潔で整頓された更衣室に入ると、気持ちは静かに手術に向かい、外科医としての感覚は研ぎ澄まされてくる。いつもそんな更衣室から手術室に向かいたい。

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