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安全のセンサーは「違和感」 [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.121

齊藤延人 (東京大学医学部附属病院病院長・脳神経外科学教授)

登録日: 2017-01-04

最終更新日: 2016-12-26

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教室では週に3回、早朝にカンファレンスを開催している。術前・術後、新入院、大きな検査後などについて、主に研修医がプリゼンし、オーベンがサポートする。このスタイルは私が研修医の時から変わっていない。疾患に関する知識から手術手技まで、このカンファレンスに育てられたとつくづく思う。

教える側の立場に立ってから、私がカンファレンスで心がけているのは、「違和感」のセンサーを研ぎ澄ますことである。特定の場面で、本来出てくるはずのフレーズが出てこないとか、本来提示されるべき画像が出てこないなど、単純なレベルでの話である。これらは論理的に気づくのではなくて、最初は違和感を感じるとしか言いようがない。研修医たちもそれなりに準備をしているのでプリゼン自体は完成度が高いのだが、こちらは同じような症例を何度も見聞きしているので、いつもと違うプリゼンがあったときに、「違和感」という感覚で検出される。そして、そこを突くと、まず間違いなく問題点が浮かび上がってくる。

もちろん、研修医はナイーブなので、こちらもかなり遠慮がちに指摘するところから質問を始めるようにしている。さすがに不始末を故意に隠しているようなことはないのだが、別人の画像で議論していたり、左右が違っていたりという単純なものから、手術の適応や方針に基本的な誤りがあることを検出することもある。非常に稀なことではあるが、手術を延期したり中止させたりしたこともある。

医療安全について、世間の目がますます厳しくなっている現在、体制や仕組みを整えるのはもちろんのことだが、現場レベルで最も大事なのは、この「違和感」センサーを働かせ、遠慮なく議論することだと思う。テレビや映画のドラマでは、悪い奴はわかりやすく悪いことをしてくれる。ところが、カンファレンスではそうではない。研修医も指導者も正しい判断をしていると信じ切って、プリゼンに臨んでいる。したがって、聴いている側が油断をしていると、間違いがあっても何となく通り過ぎてしまうのである。この「違和感」センサーが大事であることに気づいてから、カンファレンスの楽しみが1つ増えたような気がしている。

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