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トランプ氏次期米国大統領選出に思うこと [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.100

伊藤貞嘉 (東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座腎・高血圧・内分泌学分野教授)

登録日: 2017-01-04

最終更新日: 2016-12-26

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米国大統領の選挙結果を、メキシコのモンテレイで開催されている環太平洋研究大学の研究担当理事の会で聞いた。トランプ氏が勝利したとのこと、驚きである。

学会場でも様々な議論や疑念(関心事)が話されて、ホワイトハウスや事務局の機能等があるため、トランプ氏の思うようにはなかなか行かないだろうとのコメントもあった。難しいところは、州ごとに法律が違うために、アメリカ合衆国として統一的な政策を採りにくいことがあるそうだ。トランプ氏が彼のいう政策を進めると、democraticとrepublicanの州の間で人が動くかも知れないと言っていた研究者もいた。

市場の反応もアップ・ダウンであり、為替市場にも大きな影響を与えそうだ。予想困難な時代がさらにその混迷を深めているようである。移民を禁止しても賃金の低下を伴わずに、利益を上げることは難しくなっている。米国の生産性には移民が重要な役割を果たしている事実があると指摘する人もいた。ここメキシコでは移民の問題は大きな関心事だ。根本的な問題は解決される見通しはないようだ。ヒラリー氏の人気の低さも多くの口からあがった。「このレースはworseとworstの選択だ」と言う人もいた。いずれにしても、世界がどうなるか心配だ。トランプ氏は富裕層に有利な政策を立てると考えられている。現在でも大きな貧富の格差が社会問題となっているのに、それを助長すると考えられ、さらに社会の不安定感が増幅するのではないかと考える人もいた。

今回のミーティングのホストをしているモントレイ工科大学(学生10万人のメキシコ最大の私立大学で、メキシコ全土にキャンパスを持つ、産学連携の盛んな大学)の学長が、挨拶のはじめに米国の選挙結果に触れた。「トランプ氏の勝利の源泉は、科学技術と経済の急速な発展に人間がついていけなくなり、そのギャップに、人間の恐怖、貧富の格差、不安、妬み、憎悪、不平等感が生まれ増幅している現状に対して、移民問題などのきわめて限定した政策論のみを示すのみで、“Make America Great Again”と連呼したこともあるだろう」と話していた。

その後、現代社会は、このような技術革新の進歩とそれを使う人間社会・文化のギャップから生まれ、これまで人類が直面したことのない様々な問題が発生しており、それが急速なスピードで変化している。このような時代に、大学が果たす役割は有為な人材を育成することである。

我々が20~30年前に受けた教育をそのまま施しているだけでは役に立たない。自ら積極的に社会の問題を考え、それを解決するためのspecificなアイディアや仮説を自ら立てていく能動的な若者を育成しなければならない。これは教えることでは達成できず、自らチャレンジする(それを推奨する)環境をつくり、教授たちはメンターとして、また、お手本としての役割を示さなければならない。なぜなら、彼らはこれまで我々が経験したことのない問題に挑戦しなければならないからだ。研究は、そのような新たな道を開く人材育成にとって不可欠である。以上のようなことを話していた。

実際、大学内を見学しスタッフと話をしたが、教育、研究や産学連携の仕組みや大学の施設は日本の大学では考えられないダイバーシティがあり、大規模なものであった。メキシコの大学は日本の大学よりもずっと先の将来を確実に、そしてリアルに見ているようであった。また、本会に参加していたカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究担当の理事は「ハイラルキーはイノベーションを阻害する。失敗する勇気を涵養し、それから学んで立ち上がることをサポートする組織や社会がなければならない」と言っていた。

私は米国に10年以上住んで、米国でキャリアを積んで、日本に帰国して21年以上たつ。日本も少しずつ変わってきているとは感じるが、やはり日本はまだ失敗を恐れすぎる階級社会なのだろうと感じる。もっと、若者が挑戦し、活躍できる(上位者がそれを寛容かつしっかり応援する)社会がくると良いと願望する。日本は安全で治安も良く、いい国だ。これが永遠に続くことを願いたい。また最後に、これまでの世界秩序の中では日本の将来の活躍が見込まれないことを考えると、トランプ氏が次期大統領に決まったことは日本にとって千載一遇のチャンスかと、ふと思ってしまった。

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