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米国の終身介護退職者コミュニティ(CCRC)における終末期医療(2)─ヒルクレスト(Hillcrest)①[エッセイ]

No.4836 (2016年12月31日発行) P.72

宮本礼子 (江別すずらん病院 認知症疾患医療センター長)

森永知美 (MRG Associates, Inc. 代表)

宮本顕二 (北海道中央労災病院院長)

登録日: 2016-12-31

最終更新日: 2016-12-20

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  • ヒルクレストは1947年にラ・バーン市民とブレスレン教会が協力して退職者ホームをつくったことに始まります。当初6.5エーカーの敷地に10軒の家と教会が建てられましたが、市の人口増加とともに介護の需要が増加し、今では50エーカー(後楽園球場の約16倍)の敷地に約400人が暮らしています。今も教会関係者が運営に協力しています。ラ・バーン大学が近くにあるため、同校のプログラムを聴講できるという魅力もあります(写真1)。


    私たちが訪問したときの全入居者数は、インディペンデント・リビング230人、アシスティド・リビング75人、メモリー・ケア24人、ナーシング・ホーム73人の計402人でした。年齢は62~105歳、平均82歳です。

    料金は部屋の数やガレージの有無などで異なりますが、入居一時金は20万~45万ドルで、月額利用料は2200ドルです。多くは私費保険である長期介護保険*1の利用者です。この施設では、長生きして月額利用料を払えなくなった場合も、ボランティア活動による基金があるため、入居者は退去せずにすみます。
    案内してくれたマーケティング担当のHaydenさんの話では、入居を希望する人はインディペンデント・リビングやアシスティド・リビングは見学しますが、メモリー・ケアやナーシンング・ホームは見たくないと言うそうです。

    入居後は全員にPOLST*2作成を勧めます。初めは多くの人がPOLST作成を拒みますが、書いておかないと急に倒れたときに望まない医療が行われることを説明すると、ほぼ全員がPOLSTを作成するそうです。ほとんどの人は終身介護退職者コミュニティ(CCRC)で亡くなりますが、入居者がどこで亡くなるかはPOLST次第です。心臓発作が起きたときに病院に運ばれ、そこで亡くなる人もいれば、病院に行かずにCCRCで亡くなる人もいます。

    *1 長期介護保険:病気、事故などで介護が必要になるときに備えて加入する私費保険。生命保険と同じように若いとき、健康状態が良いときに加入するほうが安くなる。米国は、貧困層などの一部の国民を除き、長期介護に対する公的な保険制度はない。長期介護にかかる費用は自己負担のため、貯蓄や民間の長期介護保険を活用するなど自力で賄う。なお、昔は月々の支払額が少ない保険会社がたくさんあったが、それらの多くは破綻した。

    *2 POLST(Physician Orders for Life-Sustaining Treatment):「生命維持治療のための医師による指示書」と邦訳される。医師と患者が終末期に行う生命維持治療について事前に話し合い、合意事項を医師が医療機関に指示する文書。患者に判断能力がない場合は、医師と代理人が決定する。法的効力がある。

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