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周産期メンタルヘルスケアの必要性 【妊娠中からリスク因子を把握し,育児不安例などを広く抽出して早期に対応】

No.4816 (2016年08月13日発行) P.57

光田信明 (大阪府立母子保健総合医療センター 産科診療局長(周産期)・主任部長)

登録日: 2016-08-13

最終更新日: 2016-10-30

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【Q】

妊娠・産褥期は,精神的に不安定な時期であり,約10%前後で産後うつに罹患すると言われています。産前・産後の注意すべきリスク因子,スクリーニング法,治療の介入,医療連携などについて具体的に,大阪府立母子保健総合医療センター・光田信明先生のご教示をお願いします。
【質問者】
竹田 省:順天堂大学医学部産婦人科学講座主任教授

【A】

妊娠・産褥期の精神的な問題は,母親の自殺や児への虐待死につながることから,世界的に注目されています。WHOは,妊婦の10%,褥婦の13%が精神疾患を抱えていると指摘しています。英国のサーベイランス(2009~2012年)によると,精神疾患による自殺は,妊娠中から産後42日未満の妊産婦死亡の5%(16/321),産後42日以降1年未満の後発妊産婦死亡の19%(95/491)を占め,特に後発妊産婦死亡において大きなウエイトを占めています。
人口動態統計によると,日本における妊産婦死亡は,2014年28人(出生10万人対2.7)と低値ですが,妊産婦死亡数には,自殺によるものが含まれず,妊産褥婦の自殺についての統計は存在しません。妊産婦死亡原因として,自殺が上位に位置する国は多数存在し,日本においても例外ではないと考えられます。それを裏づけるデータとして,2014年の女性の自殺数7542人のうち生殖可能年齢の自殺は2301人(31%)であり,この中には妊産褥婦の自殺も一定数含まれていると考えられます。また,厚生労働省の「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第11次報告)」によると,0歳児の心中による死亡は年間4人であり,これは後発妊産婦死亡に含まれる数です。心中以外の虐待死例において,養育能力の低さ33%,育児不安22%,精神疾患11%,産後うつ5.6%,うつ状態16.7%,心中による死亡では,精神疾患30%,育児不安26%,うつ状態19%と,虐待と母親の精神的な問題の相関が示されています。虐待死により母親が加害者となることや,母親の自殺を避けるためには,妊娠・産褥期に母親の精神的な問題に気づくことと,早期支援が必要になります。
産後うつ病のリスク因子として,精神疾患既往,望まない妊娠,児の疾患,多胎,家族の支援がない,高齢初産,などが挙げられます。しかし,リスクがないと思っていた母親でも,不慣れな育児の中で児への過剰な心配,自責の念が高まりうつ状態となるケースを多く経験します。産後に精神的な支援の必要な妊産婦の抽出には,Patient Health Questionnaire-9(PHQ-9)やEdinburgh Postnatal Depression Scale(EPDS)など,いくつかのスクリーニング方法が提唱されています。産後うつ,精神疾患を疑った場合には,精神科への受診,必要に応じて薬物治療,入院が必要となります。
妊娠中からのリスク因子の把握に加え,妊婦健康診査時の保健指導や診察,分娩直後の様子観察から育児不安,養育能力の低さ,完璧主義や依存性の高さなど気になる妊産褥婦を広く抽出し,早期に地域(保健センターなど)へ連絡を行うことが重要になります。さらに,産科医療機関と地域,家族の協力に加え,児の診察を行う小児科,必要に応じて相談できる精神科を含めた協力体制の構築が望まれます。

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