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死亡診断書の死因の書き方【肺炎などを合併した認知症高齢者の直接死因とは】

No.4811 (2016年07月09日発行) P.61

今永光彦 (国立病院機構東埼玉病院内科・総合診療科 医長)

登録日: 2016-07-09

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

特養で入所者の看取りをして死亡診断書の記入で迷うことがあります。
(1) 施設に入所している高齢者がしだいに認知機能も衰えて寝たきりとなり,自分では食べられず介助による経口摂取も少なくなり,最期は全く口に入れられなくなり1~2週間で亡くなったとき,直接死因は認知症あるいは老衰のいずれにすべきでしょうか。
(2) 死亡診断書の(ア)直接死因に「老衰」,(イ)(ア)の原因に「認知症」と記入すると,人口動態統計上の死因は認知症になると思いますが,2014年に約50万人と言われる認知症患者数からみて,人口動態統計では認知症が少ないように感じます。
たとえば,認知症末期の入所者が発熱し肺炎で入院して施設に戻って数日後に死亡した場合に,死因に肺炎が影響していると思いますが,認知症を直接死因とするのでしょうか。
(3) 意思の疎通がまったくとれず,食事も全介助の虚弱高齢者が夜間に寝ていて呼吸停止の状態で発見され,痰の喀出ができなくて亡くなったと思われるとき,直接死因は窒息ですか,老衰でしょうか。
(4) 肺癌の診断を受けている認知症高齢者が呼吸困難もなく老衰が進行して亡くなった場合,施設で検査はできないので肺癌の進行状態の把握はできませんが,直接死因は肺癌にするか,老衰あるいは認知症にするのでしょうか。
(京都府 F)

【A】

すべての質問項目に言えることですが,ご質問に対して明確な回答はないというのが現状であると思います。あくまで,数少ない根拠と筆者自身の私見も交えた回答であることをご理解頂ければと思います。
(1)認知機能が衰え,寝たきりで食べられなくなった患者の死因
奥町ら(文献1)は,老衰と死亡診断されていた症例のほとんどが高度認知症を伴っていたことを報告しています。老衰と死亡診断されている症例の中には,認知症と診断されるべき症例も多いという考えもありますが,その一方で老衰に伴って認知機能も低下しているとの考え(加齢が進めば誰でも認知機能も落ちるという考え)もあるかと思います。インタビュー調査で,実際に認知症があるときでも老衰と診断することもあるというエピソードがあります(文献2)。同調査では,このような“老衰の定義のあいまいさ”などが在宅で老衰と死亡診断するときの臨床医の不安や葛藤となっていると分析がなされていますが,実際に臨床医が老衰と診断するにあたり,迷いが生じる場面は多いと推測されます。では,そのような迷いの中でどのように診断していけばよいか,その明確な答えは現時点ではないと思われます。
筆者自身は,年齢的な目安(たとえば85歳以上など)を持ちながら,緩徐な経過で身体や認知機能が衰えている場合は,認知機能低下も老衰のひとつの経過として,「老衰」と死亡診断を行うことが多くあります。逆に,経過上,認知症が先に発症し,その後に身体的な低下をきたしている場合には「認知症」と診断することが多いと思います。
(2)死因としての認知症と肺炎
ご指摘の通り,米国などと比較して日本では死因としての認知症が非常に少ないのが現状です。これには様々な要因が推測されますが,奥町らは,認知症患者が誤嚥性肺炎で死亡した場合に「肺炎」の病名だけが記載され,「認知症」の存在がカウントされないためではないかと指摘しており,認知症は嚥下機能障害を起こし,ひいては死亡につながる疾患である事実が広く認識されることが必要と述べています(文献1)。剖検により認知症患者の死因を調査した研究では,7割弱の患者が肺炎で死亡しており(文献3),認知症の経過として嚥下機能障害を伴い,最終的に誤嚥性肺炎で亡くなるのは自然の経過であると考えられます。認知症を直接死因に入れるのが適切ではないかと筆者自身も考えます。
(3)窒息か老衰か
窒息となると外因死にあたるわけですが,「死亡診断書記入マニュアル」では,疾病と外因がともに死亡に影響している場合の取り扱いとして,最も死亡に近い原因から医学的因果関係のある限りさかのぼって疾病か外因かで判断するようにと記載されています(文献4)。
そのように考えると,ご質問の事例は,老衰の経過として自己で排痰ができなくなり,最終的に痰による窒息で亡くなったとしても,それは老衰を直接死因とすることが妥当と思われます。また,事例では痰による窒息があったかを確認することは困難と考えられ,そのような意味からも老衰と記載するのがよいのではないかと考えます。
(4)肺癌,老衰,認知症
これは非常に難しい問題と思いますが,今後自宅や施設でお看取りをする際にはよく遭遇する問題であると思います。がん,認知症,老衰,いずれが亡くなった最も主たる要因かを臨床的に判断するわけですが,検査ができない中ではその判断はより困難となります。最終的には,主治医が,病状の経過から何が主たる要因となっているのかを臨床的に判断することとなるかと思います。

【文献】


1) 奥町恭代, 他:日老医誌. 2015;52:354-8.
2) 今永光彦, 他:在宅医療において,医師が死因として「老衰」と診断する思考過程に関する探索. 公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団による研究助成完了報告書. 2014.
3) Magaki S, et al:J Am Geriatr Soc. 2014;62(9):1722-8.
4) 厚生労働省大臣官房統計情報部医政局, 編:死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル(平成28年度版). 厚生労働省大臣官房統計情報部医政局, 2016.

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