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ICUにおける強化インスリン療法

No.4755 (2015年06月13日発行) P.53

三島史朗 (東京医科大学救急・災害医学教授)

登録日: 2015-06-13

最終更新日: 2016-10-26

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急性期栄養の分野でのこの10年で最大の話題は,強化インスリン療法であろう。ベルギー発の臨床研究においてICUの患者を対象に,こまめな採血とインスリン投与の調整で血糖値を80~110
mg/dLに維持したところ,対照群に比べてICU死亡率が有意に低下した(文献1)。急性期診療,特に救命センターや集中治療室で,患者は外科的糖尿病状態に陥りやすい。高血糖はそれ自体が酸化ストレスを悪化させて,感染症合併のリスクを高める。強化インスリン療法は,急性期の高血糖を制御することで臨床アウトカムを改善した。急性期における代謝栄養の特徴は,制御不能な異化の亢進と外因性基質の利用低下である。強化インスリン療法は,この課題の最終的な解決策と見なされ,急性期栄養の分野で一躍時代の寵児となった。
しかし,栄光は長く続かなかった。強化インスリン療法の有用性を検証する多施設共同研究が,2000年代後半に相次いで報告された。それらは臨床アウトカムの改善を示すことができず,低血糖の頻度が高まって研究中止に追い込まれるものもあった。
そして,決定打となったのがNICE-SUGAR研究である。この研究では,強化インスリン療法群は,90日死亡率を有意に高めるという結果となってしまった(文献2)。原法で示された良い結果が追認できなかったのは,対象群の血糖値が大きく異なるところに一因がある。強化インスリン療法「後」の今日,目標血糖値や高血糖の管理法には,なお議論の余地を残している。

【文献】


1) van den Berghe G, et al:N Engl J Med. 2001;345(19):1359-67.
2) Finfer S, et al:N Engl J Med. 2009;360(13):1283-97.

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