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産業保健の現場でみる事例性と疾病性

No.4748 (2015年04月25日発行) P.57

中村 純 (産業医科大学精神医学名誉教授)

登録日: 2015-04-25

最終更新日: 2016-10-26

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精神医学では,事例性という概念が特に意識されることがある。精神科医は,ある症例を診たときにその病名,重症度などを考慮しながら薬物選択や精神療法などを行って治療にあたるが,産業保健の現場では,極端に言えば病名や重症度は関係なく,その人が本当に仕事ができるか,ほかの労働者とうまく関係性を保ってやっていけるか,将来性があるのか,などが問題になる。すなわち,軽症であっても人間関係がうまく築けない場合や仕事の能率が極端に劣る場合は,仕事ができないと判断することもある。したがって,産業医を含めた産業保健スタッフは,その人が職場でどのように適応できているかを十分に把握する必要がある。以上のように考えると,人事労務の問題としてとらえたほうがよい場合も起こりうる。
事例性とは,社会の中で疾病ゆえに問題とされるということであるが,特に産業保健の現場では,復職判定,休職判定などで重要な概念になる。また,疫学調査などでも事例になっていなければ有病率に数えられないが,軽症の人までを事例としてとらえた場合,差別につながる可能性もある。
しかし,たとえば,統合失調症の自閉や感情鈍麻などの陰性症状のように,目立たない症状であるからといって軽症とは言えず,むしろ本質的な症状である可能性もある。事例性というのは,判断基準としては最もあいまいな概念で,医学的診断になじまない基準であるが,精神医療の中では異常性の判断材料としてしばしば用いられる概念である。

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