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第3世代以降のセファロスポリン系薬選択の根拠

No.4720 (2014年10月11日発行) P.57

笠原 敬 (奈良県立医科大学感染症センター講師)

登録日: 2014-10-11

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

世代以降のセファロスポリ ン系薬選択の根拠
Klebsiella pneumoniaeの菌血症を伴うような重症感染症に対して,感受性試験結果が判明してから抗菌薬を選択する際に,第1・第2世代のセファロスポリン系薬に対して感受性が保たれていても慣習的に第3世代以降のセファロスポリン系薬が選択されることがあります。私も漠然とそのようにしていますが,文献的な根拠ははっきりしません。実際どのように対応しておられるのか,このような選択がされるようになった背景や経過とともに,奈良県立医科大学・笠原 敬先生のご教示を。
【質問者】
藤田崇宏:東京女子医科大学病院感染症科

【A】

Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)は大腸菌と同じく腸内細菌科に属するグラム陰性桿菌で,ペニシリナーゼと呼ばれるペニシリン系薬を分解する酵素を産生するため,アンピシリンやアモキシシリンなどのβ-ラクタマーゼ阻害薬が配合されていないペニシリン系薬は無効です。また,近年は基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase:ESBL)を産生する株や,AmpCと呼ばれるβ-ラクタマーゼを産生する株も散見され,このような場合は第3世代,あるいは第4世代のセファロスポリン系薬に耐性を示します。さらに,最近ではカルバペネマーゼを産生してカルバペネム系薬を分解する株も出現しています。
しかし,ESBLやカルバペネマーゼを産生せず,薬剤感受性試験結果で感受性が確認できれば第1世代,第2世代セファロスポリン系薬を肺炎桿菌感染症に使用してもかまいません。ただし,ここで注意しなければならないのは,薬剤感受性よりもむしろ薬剤移行性の違いでしょう。たとえば,近年日本でも報告されている過粘稠性(高病原性)肺炎桿菌による感染症では,敗血症や肝膿瘍に付随して眼内炎や髄膜炎を併発することがあります。第1世代セファロスポリン系薬であるセファゾリンは中枢神経系や眼内への移行はきわめて悪く,このような場合は移行性の良い薬剤を選択する必要があります。
しかし,「移行性」だけで臨床的有効性が決まるわけでもありません。『サンフォード感染症ガイド』を見ると,第2世代セファロスポリン系薬のセフロキシムなどは髄液移行性が17~88%と良好であるにもかかわらず,中枢神経系における有効濃度としては“marginal”(ギリギリ)となっています。一方,第3世代セファロスポリン系薬のセフォタキシムは髄液移行性が10%と良好ではありませんが,中枢神経系における有効濃度は“yes”(良好)となっています。臨床的有効性は移行性だけではなく,感受性や抗菌薬の用法・用量などを総合的に判断する必要性があるのです。
結論を言いますと,「重症」肺炎桿菌感染症では,「いろいろなこと」を考えて最終的な抗菌薬の決定が必要だということです。そのような意味では,「重症」感染症において,ある程度使用経験や基礎的・臨床的なエビデンスの多い抗菌薬(すなわち第3世代セファロスポリン系薬)に頼りがちになるのは仕方ないのかもしれません。
筆者は本当に「重症」の感染症ではいろいろな意味での「セーフティマージン」が必要で,そこであえて「攻める」必要性はないと思います。しかし,一方で「プロの医療従事者」は「いろいろなことを考える(そして調べる)」努力を怠ってはならないと思うのです。ついでに言えば,「いろいろなこと」という言葉ですませてもいけません。そうした熟考の上での第3世代セファロスポリン系薬の選択であれば,何ら問題はありません。

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