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医療行為における唾液を介したB型肝炎ウイルス感染の可能性

No.4756 (2015年06月20日発行) P.61

藤澤知雄 (済生会横浜市東部病院小児肝臓消化器科顧問)

登録日: 2015-06-20

最終更新日: 2016-12-13

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【Q】

B型肝炎ウイルス(HBV)の感染経路として母子感染が知られていますが,唾液による感染(口移し)もあるようです。たとえば,歯科治療などによって,成人慢性B型肝炎患者・キャリアの唾液から医療従事者が感染する可能性について,ご教示下さい。 (神奈川県 N)

【A】

HBVの感染対策は,ここ数年間でダイナミックに変わりました。
肝炎関連で最も権威のあるウイルス肝炎研究財団による,2014(平成26)年改訂の「B型肝炎について(一般的なQ&A)」(文献1)に「HBVは医療行為(歯科診療を含む)で感染しますか」という質問に対する回答が記載されています。
ここでは,「現在,日本で行われている医療行為(歯科医療含む)でHBVに感染することはまれと考えられています。しかし,まれに医療機関内での感染(宮城県B型肝炎調査検討会,2004)や,長期間にわたって血液透析を受けている方での感染事例(東京都劇症肝炎調査研究報告書,1995),(兵庫県B型肝炎院内感染調査報告,2000)が報告されており,今後も医療機関における感染予防の徹底を図ることが求められています」と答えています。
しかしながら,一般的にHBVはHIVに比べて約100倍の感染力があると言われています。数年前までは,常識的な日常生活をしていれば,HBV感染を受ける機会はほとんどないので,手洗い,うがいなどの一般的な予防対策(standard precaution)をしていれば,HBVの感染の危険性はないとされていました。
しかし,ここ数年間で,HBV感染は母子感染以外にも,家庭内感染や保育所での集団感染があることが認識されました。母子感染以外の感染を水平感染と呼びますが,この水平感染が意外に多いことがわかりました。水平感染の感染源は血液,精液以外に唾液,汗,涙などの体液で,これらがHBV感染源になります。
表1 (文献2)に血液,精液以外の体液がHBV感染源になりうるとする報告例を示します。HBVキャリアの唾液中HBVと,このキャリアから感染した人のHBVは分子生物学的に同一であることも証明されています。唾液を介する感染があるわけです。
歯科医師は患者の唾液・口腔粘液と接触する機会が多い職種です。実際に,歯科医師はほかの医療従事者よりもHBVの感染既往を示すHBc抗体陽性率が有意に高いことが知られています(文献3)。歯科医はHBV感染のハイリスク集団です。
世界的に見ると,全世界の大多数の国はB型肝炎(HB)ワクチンを全国民に接種しており,あまりHBVの水平感染の問題は起きていません。
日本と同様に,ハイリスク群のみHBワクチンを接種している国では,歯科医を含む医療従事者,警察官,救急消防士などにも積極的にHBワクチンを接種するように勧告しています。
厚生労働省は早ければ2016年度から,すべての0歳児を対象にHBワクチンを定期接種とするという方針を発表しました。しかし,0歳児以外は任意接種です。歯科医はHBV感染を受ける機会が非常に多いことから,HBワクチンを接種すべきです。

【文献】


1) 公益財団法人ウイルス肝炎研究財団:B型肝炎について(一般的なQ&A). [http://www.vhfj.or.jp/06.qanda/about_btype.html]
2) 藤澤知雄:医のあゆみ. 2013;244(1):105-11.
3) Nagao Y, et al:Int J Mol Med. 2008;21(6):791-9.

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