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1歳未満児に対する麻疹・風疹・水痘・おたふくかぜワクチンの適応

No.4753 (2015年05月30日発行) P.65

菅谷明則 (すがやこどもクリニック院長)

登録日: 2015-05-30

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

母体からの移行抗体は生後6カ月頃に消失しますが,麻疹,風疹,水痘,おたふくかぜワクチンを接種できるのは1歳以上からである理由をご教示下さい。水痘患者と接触した場合,緊急的にワクチン接種を行いますが,1歳未満の児では適応がないのでしょうか。 (千葉県 M)

【A】

(1)麻疹,風疹,おたふくかぜワクチンの 初回接種の時期
麻疹などの生ワクチン初回接種の時期は,母体からの移行抗体の消失だけではなく,罹患のリスクや免疫能が成熟しワクチンで十分に免疫が得られる年齢とのバランスで決まります。
わが国の1歳未満の患者の割合は,麻疹は輸入麻疹が流行した2014年で10.2%(47例),風疹は流行した2013年で0.7%(105例),おたふくかぜは2013年の定点報告で0.4%(171例)でした。麻疹以外は,1歳未満の罹患のリスクが高いとは言えません。
以下では,1歳未満の患者の割合が多く,重症になりやすい麻疹について述べます。なお,添付文書では麻疹単独,麻疹風疹混合ワクチンは1歳未満の適応がありますが,風疹単独,おたふくかぜワクチンの適応は1歳以上です。
麻疹ワクチンを9カ月と12カ月で接種し比較した結果,9カ月での接種のほうが接種後の抗体陽転率や抗体価が低いことが示されています(文献1,2)。また,麻疹抗体陰性の母親からの出生児に6カ月で接種すると,15カ月で接種したときに比べて接種後の抗体価が低かったことから,移行抗体の影響だけではなく抗体産生能の未熟さが影響することが示唆されています(文献3)。
米国では,麻疹ワクチンは1963年に承認されました。このとき,7カ月で母体からの移行抗体がほとんど消失すると考えられていたため,9カ月から接種していましたが,その後,11カ月まで移行抗体が残存することが多いことが明らかになり,1965年に12カ月からに変更されました(文献1)。
WHOは,麻疹の流行が継続し,麻疹による乳児死亡率が高い国では9カ月で初回接種,15~18カ月で2回目接種を推奨し,また麻疹感染の少ない国では12カ月での初回接種を推奨しています。12カ月から接種している国の中には,海外旅行の際や流行時には6カ月からの接種を推奨している国もあります。フランスでは保育園に通っている9カ月の児に対して接種を推奨しています。
2015年3月にWHOより麻疹排除が認定されたわが国の状況から,初回接種後のprimary vaccine failureの割合を少なくするために,1歳からの接種が妥当です。しかし,麻疹の流行が減少した状況では,ワクチン接種世代の母親からの出生児は早期に移行抗体が消失することが指摘されており(文献4),流行時などの対応として1歳未満でも積極的に接種を行うことで罹患を防ぐことが重要です。
(2)1歳未満の児に対する水痘ワクチンの緊急 接種
2013年の水痘定点報告のうち6.4%(1万1257例),全例報告になった水痘入院患者のうち約10%が1歳未満であり,1歳未満でも水痘感染のリスクは低くありません。麻疹,風疹,おたふくかぜ,水痘四種混合ワクチンを9カ月と12カ月で接種した検討では,重篤な有害事象はなく,水痘の抗体陽転率,抗体価ともに接種月齢による有意差を認めていません(文献2)。したがって,1歳未満でも接触後の緊急接種は有効と考えられます。しかし,添付文書では適応が1歳以上になっており,水痘ワクチンの重篤な副作用で初めて免疫不全と診断された報告(文献5) もあるため,1歳未満の緊急接種には慎重な対応が必要です。

【文献】


1) Plotkin SA, et al:Vaccines. 6th ed. Elsevier, 2012, p352-87.
2) Vesikari T, et al:Vaccine. 2012;30(20):3082-9.
3) Kumar ML, et al:Vaccine. 1998;16(20):2047-51.
4) 中村晴奈, 他:第46回日本小児感染症学会抄録集. 2014, p183.
5) Leung J, et al:Hum Vaccin Immunother. 2014;10(1):146-9.

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