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高額な役員報酬の損金算入にあたっての判断

No.4749 (2015年05月02日発行) P.66

益子良一 (税理士法人コンフィアンス代表社員税理士専修大学法学部講師)

登録日: 2015-05-02

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

とある企業の外国人役員は,日本にいる時間は短いにもかかわらず,常時勤務している日本人の社長に比べて非常に高額な報酬を得ていると聞きます。一般法人では認められているようですが,医療法人ではそのような役員報酬は認められないとする法律があればご教示下さい。
また,具体的に以下のような対応は可能でしょうか。
(1) 理事長1人が医師として診療を行っている法人で,理事長報酬が2000万円,法人の経常利益が4000万円である場合に,翌年度から理事長報酬を6000万円とする。
(2) 理事長は診療を行わず,院長を雇用している法人で,院長報酬を2000万円,理事長報酬を2000万円とし,法人の経常利益が4000万円となる場合に,翌年度から理事長報酬を6000万円とする(上記の法人は無借金で内部留保金が1億円あるとする)。 (埼玉県 K)

【A】

質問文に「外国人役員は高額な報酬を得ている」とありますが,上場企業の役員報酬(役員給与)を想定していると思われます。
上場している企業は,株式会社で法人税法上「普通法人」に該当します。普通法人とは,法人税法第2条「定義」で,公共法人,公益法人等,協同組合等以外の法人をいい,人格のない法人などを含まないとしています。医療法人も普通法人に該当し,役員給与の取り扱いに差異はありません。
役員報酬について,法人税法は「役員給与の損金不算入」(法人税法第34条)と規定し,原則として,損金の額に算入すること,すなわち経費にすることを認めていませんが,一定の要件に該当する場合は,損金の額に算入することを認めています。
しかし法人税法第34条は,役員に支給する給与のうち「不相当に高額な部分の金額」として「政令」で定める金額は損金の額に算入しないとしています。
政令(法人税法施行令第70条)には,役員報酬の「形式基準」と「実質基準」が定められており,法人税法の適用を受けるすべての法人に適用されます。
形式基準では,定款の規定または株主総会,社員総会もしくはこれらに準ずるものの決議により役員給与の額を決めている場合に,その決議等の金額を超えた場合は高額な役員給与として損金の額に算入しないとしています。
実質基準は,その役員に対して支給した給与が,(1)その役員の職務の内容,(2)その法人の収益および,(3)その使用人に対する給与の支給の状況,(4)その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況,などに照らして,その役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える金額は,役員給与として損金の額に算入しないとしています。
[1]および[2]は,高額な役員給与と認定され,損金不算入になるか否かについての質問です。
6000万円の理事長報酬について,社員総会等の決議をすることにより,形式基準をクリアすることは可能であると考えます。しかし,実質基準により,理事長報酬6000万円が高額な役員給与と認定されて損金不算入になる可能性があります。
実質基準をめぐり,どこまでの役員報酬なら損金算入することができるかわからないので,租税法律主義に反すると裁判で争われましたが,判決は「相当であると認められる金額を超えるかどうかは,納税者においても申告時に判断可能である」(名古屋高裁平成7年3月30日判決)としています(最高裁平成9年3月25日判決・確定)。
そこで,[1]および[2]の理事長報酬が実質的にみても不相当に高額でないと主張するためには,職務に対する対価が,(1)その役員の職務の内容,(2)その法人の収益,(3)その使用人に対する給与の支給の状況,(4)その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況,などに照らしても相当であることを立証していく必要があります。
なお役員報酬については,「役員報酬 国税が物言い,『高すぎる』経費認めず訴訟に,適正な額かお手盛りか」(朝日新聞・2014年11月2日)と記事になるように,役員給与が高額か否かをめぐり税務訴訟が起きています。
法人税法の枠組みの中で,高額と思われるような役員報酬の損金算入について,上場企業などの一定の企業では認められ,それ以外の企業では認められにくい実態があることを念頭に置いた上で,[1]および[2]のような具体的内容については,信頼できる税理士と相談して対応することをお勧めします。

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