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非医療従事者によるAED使用の法的責任

No.4747 (2015年04月18日発行) P.66

丸山富夫 (丸山富夫法律事務所 弁護士)

登録日: 2015-04-18

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

一般市民(非医療従事者)のAED使用について行政は積極的な協力を要請しており,学校でも必須学習項目となっています。以下2点について法令上の定めがあればご教示下さい。
(1)非医療従事者がAEDを使用しても医師法違反に問われない。
(2)悪意がなければ刑事・民事責任を問われない。
(茨城県 N)

【A】

まず一般市民のAED使用について説明したあとで,警察官,消防士,教員,客室乗務員などのように,あらかじめAEDの使用が想定される職業人の場合について簡単に述べます。

[1]一般市民によるAED使用と医師法
医師法第17条は「医師でなければ,医業をなしてはならない」と規定しており,違反すると同法第31条により刑事罰が科されます。ところで「医業」という用語は,「反覆継続の意思を以って医行為をすること」と解されています(最高裁判所昭和28年11月20日決定)。「医行為」とは,医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずる恐れのある行為を言います(最高裁判所昭和30年5月24日判決)。
AEDを用いた除細動が医行為であることに異論はないので,一般市民がAEDを使用することは,医師法に違反するようにも思われます。しかし,救急の現場に居合わせた一般市民のAED使用には,反覆継続性が認められないため,医師法違反にはなりません。

[2]一般市民の刑事・民事責任
一般市民が法的責任を問われることを心配して,救命措置をとらない場合があると言われています。しかしAED使用に限れば,その心配は杞憂と思われます。確かに告訴や被害届の提出があると,警察は刑事責任の有無につき捜査しなければなりませんし,市民は誰でも民事訴訟を提起できるから,民事責任を追及する裁判の提起が絶無とは言いきれません。
この場合の法的責任について,「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用のあり方検討会報告書」(平成16年7月1日付医政発第0701001号厚生労働省医政局長通知添付)は,「医師法違反の問題に限らず,刑事・民事の責任についても,人命救助の観点からやむを得ず行った場合には,関係法令の規定に照らし,免責されるべきであろう」とのみ述べていますが,その法的根拠は明記されていません。いわゆる行政解釈は裁判所を拘束しないので,その法的根拠を検討しなければなりません。
傷害罪などの刑事責任が問題とされた場合には,「悪意」の有無の問題ではありません。対象者の生命に対する現在の危難を避けるために実施した行為であることから,緊急避難(刑法第37条)に該当し,犯罪は成立しないと解されます。
次に民事責任ですが,一般市民によるAED使用は,急迫の危害を免れさせるために義務がないのに行う緊急事務管理(民法第698条)に該当するので,「悪意又は重大な過失」がなければ損害賠償責任を負いません。悪意とは,対象者を害する意図が認められる場合であり,重大な過失とは,著しく注意を欠くことです。AEDは,除細動を行うべきでない場合には,ボタンを押しても通電できないように設計された安全な機器なので,民事責任が追及されても,裁判所が悪意や重過失の存在を認めることはほとんど考えられません。
米国においては,善意かつ無償で行動した人のために「善きサマリア人法」と呼ばれる法律があり,自発的に救命行為をした人の処置があとから見て最善のものでなくても,その責任が問われることはありません。わが国ではサマリア人法は制定されていませんが,緊急事務管理の規定がサマリア人法に代わる役割を果たしています。

[3] あらかじめAEDの使用が予想される者のAED使用
業務の内容や活動領域の性格から一定の頻度で心停止者に対し応急の対応を行うことがあらかじめ想定される者(「一定頻度者」と略されることが多いが,以下では「職業上の応急対応想定者」)については,本来の業務遂行に際してAEDを使用するから,AED使用に反覆継続の意思がないとは言いきれません。前記の報告書は,(1)医師による速やかな対応を得ることが困難,(2)対象者の意識・呼吸がないことの確認,(3)AEDの使用に必要な講習の受講,(4)医療用具として薬事法(薬事法は,2013年改正により「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」になった)上の承認を得たAEDの使用,という4つの条件が全部満たされた場合には,医師法違反にならない旨を示唆しています。私見では,この4条件は正当業務行為(刑法第35条)と言いうるために設定されたものと考えます。また過失傷害や過失致死等の刑事責任については,4条件が具備されていれば過失は認められないと思われます。
しかし業務中の民事責任については,私見ではありますが,職種ごとに緊急事務管理の規定が適用されるかどうかを検討しなければなりません。たとえば,警察官や消防士については国家賠償法の適用があるから,緊急事務管理の適用は否定されるでしょう。もっとも,緊急事務管理の規定の適用はないとされても,前記の4条件が満たされた場合のAEDの使用に過失は認められないため,裁判所で損害賠償責任が認められることは通常ありえないと思われます。むしろAEDを使用すべき場合に使用しないという不作為のほうが,責任を問われる余地があると考えます。
なお,勤務時間外に心停止者に遭遇してAEDを使用した場合には,職業上の応急対応想定者であっても,一般市民として扱われます。

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