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適切な離乳の時期と虫歯の関係

No.4707 (2014年07月12日発行) P.63

和田友香 (国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター新生児科)

登録日: 2014-07-12

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

当方,一般内科であるが,地域事情のため町の委託を受け,1歳6カ月健診を行っている。同時に歯科医による歯科健診も行っている。健診歯科医は,虫歯の原因になるので,1歳から遅くても1歳2~3カ月までには離乳するよう指導している。しかしWHOは2歳かそれ以上まで母乳育児を続けるよう推奨している。親から離乳の時期について質問を受けた場合,どのように指導するべきか。また,海外では離乳の時期についてどのように指導されているのか。 (北海道 M)

【A】

UNICEF/WHOは少なくとも生後6カ月までは母乳だけで育て,その後は適切な食べ物を補いながら2歳かそれ以上まで母乳育児を続けることを推奨している。また母乳育児の年齢制限はない(no upper limit)とも言っている。
いわゆる「乳離れ」は乳児自身が決めるものであって大人が決めるものではない。したがって,自然に離乳する時期を待てばよい。海外でもわが国でも同様の考えである。また虫歯の発症には様々な因子が関わっており,母乳育児を続けるだけでは虫歯にはならない。
現在まで様々な研究がなされ,母乳育児により乳児の健康だけでなく母親,家族,社会全体がその恩恵を受けられることが証明されてきた。たとえば乳児においては乳児突然死症候群のほかに,肺炎,腸炎,中耳炎などの感染症やアレルギー性疾患の発症率が下がる,IQが高くなるなど,母親においては乳癌や卵巣癌の罹患率が下がるなどのメリットが明らかになっている(文献1~5)。
世界的にはUNICEF/WHOが1979年に母乳育児の推進を提言し,1989年に「母乳育児成功のための10カ条」(表1)を発表した。2002年に開かれた第55回世界保健総会では「乳幼児の栄養に関する世界的運動戦略」が採択された。この中には少なくとも生後6カ月までは母乳だけで育て,その後は適切な食べ物を補いながら2歳かそれ以上まで母乳育児を続けることと,その実現のために政府など権威ある公的機関が役割を果たさなければならないこと,母乳育児支援をする保健医療従事者は熟練した援助技術を身につけなければならないことなどが含まれている。また米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)も1997年に「母乳と母乳育児に関する方針」を示し,2005年の改訂版では,小児科医は母乳育児を保護,推進,支援するための様々な方法を明示し,母乳育児援助活動の調整や子どものための医療の場を提供する役割があることを強調している(文献6)。
虫歯にはミュータンス菌,糖質,歯や唾液の状態といった宿主側の3因子が存在し,時間を経て発症する。詳細な機序は,(1)歯にミュータンス菌が感染,(2)ミュータンス菌が糖質を分解してグルカンを産生,(3)グルカンが歯に付着し歯垢を形成,(4)歯垢内部のミュータンス菌がさらに入ってきた糖質により酸を産生,(5)酸が歯を溶解,(6)虫歯となる,というものである。つまり虫歯の発症には母乳中の糖質の存在だけではなくミュータンス菌と歯垢の存在が必須で,さらに長時間その状態が持続することが必要である。一方,歯が生えてくる頃の乳児の栄養は母乳よりもほかの食べ物による場合が多いはずであり,この点からも母乳だけで虫歯になるとは言えない。母乳育児をする,しないにかかわらず,適正に歯磨きをすることが大切である。
母乳のメリットは科学的に証明されており,医療従事者は母乳育児を支援することで母子の健康を推進していく必要がある。

【文献】


1) Mitchell EA, et al:J Paediatr Child Health. 1992;28 Suppl 1:S3-8.
2) Bachrach VR, et al:Arch Pediatr Adolesc Med. 2003;157(3):237-43.
3) Lucas A, et al:Lancet. 1992;339(8788):261-4.
4) Labbok MH, et al:Pediatr Clin North Am. 2001; 48(1):143-58.
5) Rosenblatt KA, et al:Int J Epidemiol. 1993; 22(2):192-7.
6) アメリカ小児科学会:母乳と母乳育児に関する方針宣言. 2005年改訂版. 日本ラクテーション・コンサルタント協会, 訳. p1-10.
[jalc-net.jp/dl/AAP2009-2.pdf]

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