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高病原性クロストリジウム・ディフィシルによる腸炎の治療

No.4766 (2015年08月29日発行) P.55

森 伸晃 (国立病院機構東京医療センター総合内科)

登録日: 2015-08-29

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)のうち,高病原性とされるBⅠ/NAP1/027の報告が海外を中心に増えています。高病原性は死亡率も高いとされていますが,わが国においては偽膜性腸炎の治療薬として経口メトロニダゾールと経口バンコマイシンはどのように使いわけられているのでしょうか。静注メトロニダゾールという選択肢が加わった現在,そのプラクティスをどのように変えていくべきでしょうか。国立病院機構東京医療センター・森 伸晃先生のご教示をお願いします。
【質問者】
荒岡秀樹:虎の門病院臨床感染症科

【A】

高病原性のクロストリジウム・ディフィシル(BⅠ/NAP1/027)は,北米や欧州の一部の国や地域でアウトブレイクを起こし,重症例や死亡例が増加していることから脅威となっています。一方で,わが国のクロストリジウム・ディフィシル感染症(Clostridium difficile infection:CDI)に関する疫学情報は限られていますが,現時点では国内でBⅠ/NAP1/027によるアウトブレイク事例は幸い報告されていません。BⅠ/NAP1/027以外の高病原性株の存在も報告されていますが,これについても国内では症例報告レベルです。
私は市中病院に勤務していますが,CDIが重症化し緊急手術やICU管理が必要となるような経験は年に数えるほどです。また,海外では薬剤耐性の出現も報告されていますが,幸い国内ではメトロニダゾールの薬剤耐性株はほとんどみられていないのが現状です。
それをふまえた上で実際にどのように診療を行っているかということになりますが,CDIを治療する際に,まず使用している抗菌薬が中止できるか否かということを考慮します。そして治療薬としては,経口のメトロニダゾールを第一選択薬として使用しています。ただし下記のような状況では,経口のバンコマイシンを優先して使用します。
1つ目は,重症CDIもしくは重症化しそうな背景がある場合です。ただ重症CDIと言っても,その定義は米国感染症学会や欧州臨床微生物学会のガイドラインなどでも少しずつ異なっており,統一されたものはありません。これらのガイドラインを参考にしつつ,主観的になりますが,患者さんの全身状態(重症感)と,腎機能障害と低アルブミン血症を私は重症(化)の指標としています。
2つ目は,薬物相互作用のある場合です。メトロニダゾールはワルファリンをはじめとしていくつかの薬剤と相互作用があるため,多くの薬剤を服用している患者さんに対するメトロニダゾールの使用は慎重になります。
3つ目は,CDIを繰り返している場合です。一度CDIが再燃するとその後の再燃率が高くなることが知られており,状況によっては1回目の再燃でもバンコマイシンを使用します。
最近,日本でも使用できるようになったメトロニダゾール注射薬ですが,CDIの治療薬としての役割は2つあると考えています。
まずは経口摂取ができない人に対する使用です。今まで消化管の通過障害がある人や高齢で嚥下機能が低下している人がCDIに罹患した場合は,苦肉の策としてメトロニダゾール腟錠を挿肛していましたが,悩む必要がなくなりました。もう1つは重症CDIに対する使用です。これは各ガイドラインにも明記されていますが,重症例に対して経口バンコマイシンと併用して使用します。
以上のことから,メトロニダゾールの注射薬の登場により,治療の選択肢が広がりはするものの,現時点でCDI治療に対するプラクティスを変える必要はないと考えます。

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