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ESBL産生菌感染症治療におけるセファマイシン系抗菌薬の位置づけ

No.4747 (2015年04月18日発行) P.57

原田壮平 (がん研有明病院感染症科部長)

登録日: 2015-04-18

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

近年,問題になっている基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-
lactamase:ESBL)産生菌による感染症に対してはカルバペネム系抗菌薬が第一選択薬とされていますが,薬剤感受性試験でセファマイシン系抗菌薬に感受性がみられることをしばしば経験します。ESBL産生菌による感染症の治療におけるセファマイシン系抗菌薬の位置づけはどのように考えればよいでしょうか。がん研有明病院・原田壮平先生のご回答をお願いします。
【質問者】
上田晃弘:東海大学医学部付属病院総合内科

【A】

Escherichia coli,Klebsiella pneumoniaeなどの腸内細菌科でESBL産生が確認された場合は,ESBLが分解できる「すべてのペニシリン系・セファロスポリン系抗菌薬およびアズトレオナム」の感受性試験結果を「耐性」と報告すべきとされています。この勧告は,ESBL産生菌感染症をセファロスポリン系抗菌薬で治療したときに高頻度に治療失敗がみられたという報告に基づいています(文献1)。また,ESBL産生菌感染症をカルバペネムで治療したほうが,キノロン系などほかの抗菌薬で治療した場合よりも予後が良好であるという報告があり(文献2),ESBL産生菌感染症(特に重症感染症)の第一選択薬はカルバペネムと考えられてきました。
ところで,過去10年間にESBL産生菌を含めた耐性グラム陰性桿菌の疫学は劇的に変化しました。かつては,ESBL産生菌は主に院内のK. pneumoniaeにおいて比較的低頻度に検出されていたのが,現在ではE. coliが主な産生菌種となっており,市中感染症の起因菌としてもしばしば認められる状況となりました。厚生労働省と国立感染症研究所が運営する院内感染対策サーベイランス事業(Japan Nosocomial Infections Surveillance)のデータによると,わが国の2013年のE. coli分離株のうち15~20%程度はESBL産生菌と推測されます。また,KPC(K. pneumoniae carbapenemase)産生菌,メタロβ-ラクタマーゼ産生菌などのカルバペネム耐性腸内細菌科の増加が世界的に大きな問題となっており,わが国においてもその報告が徐々に増加しています。
一方,カルバペネムをESBL産生菌感染症の第一選択薬に位置づけた臨床知見の多くはK. pneu-moniae(現在,主に問題となっているE. coliではなく)の感染症を中心に集積されたもので,なおかつ(耐性菌感染症治療の臨床研究の宿命とも言えますが),必ずしも多数の症例を集めた質の高い臨床研究の結果に立脚するものではありません。
以上から,「耐性腸内細菌科の最強の敵であるESBL産生菌」を「切り札のカルバペネム」で治療していた時代とは異なる治療戦略を模索することは妥当性を有すると考えます。セフメタゾールなどのセファマイシン系抗菌薬はほかのセファロスポリン系抗菌薬と異なり,ESBLによる分解を受けないため,酵素学的にはESBL産生菌に対する効果が期待できます。また,腎盂腎炎においてはカルバペネムと同等の臨床効果が得られうることを示したわが国の臨床研究があり(文献3),軽症~中等症の尿路感染症における治療選択肢の1つとして考慮してよいと考えます。
しかしながら,十分な臨床知見の蓄積があるわけではないこと,治療中に外膜蛋白の変異などによりセファマイシン系抗菌薬に耐性化しうることも報告されていることから(文献4),尿路感染症以外の感染症や重症感染症における使用については慎重に判断すべきです。

【文献】


1) Paterson DL, et al:J Clin Microbiol. 2001;39(6): 2206-12.
2) Paterson DL, et al:Clin Infect Dis. 2004;39(1): 31-7.
3) Doi A, et al:Int J Infect Dis. 2013;17(3):e159-63.
4) Pangon B, et al:J Infect Dis. 1989;159(5): 1005-6.

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