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老人と薬 [エッセイ]

No.4778 (2015年11月21日発行) P.70

大谷信一 (介護老人保健施設ほほえみの里きど施設長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-08

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  • 筆者は若い頃から患者に「毒をうすめたものが薬です。だから使用時間や量が決まっているのです」と伝えてきた。

    心臓血管外科専門医として診療していたときには、カテコラミンなどの多くの強心薬、麻酔薬、ヘパリン、麻薬などを頻用していた。67歳でアクティブな臨床医を辞めて、介護老人保健施設(100床)の施設長に就いた。日本では90歳は特別な年齢ではない。筆者の勤める施設入所者の平均年齢は88歳である。



    2010年2月、93歳の男性が入所してきた。前医での診断は慢性心不全、慢性腎不全、高血圧症、レビー小体型認知症、慢性気管支炎であった。服薬は、①コニール、②ラシックス、③アルダクトンA、④テオドール、⑤フェロチーム、⑥ムコダイン、⑦アロチーム、⑧ダーゼン、⑨オルメテック、⑩デパス、⑪メチコバール、⑫プルゼニド、⑬ムコサール、⑭抑肝散。その後、当所で①~⑦の7薬に減らした。
    入所後は、認知症による徘徊があったが、会話、食事は自分でできた。時に気管支炎症状があり抗菌薬を投与した。2011年8月から食事量が減りQOL低下傾向。9月に入りベッド上全介助となり介助食も拒否または極少量となった。数日ごとに輸液500mL施行。9月12日、体動ほとんどなく、呼名により少々表情が動くのみ。時に介助食少々食べることあり。9月20日、看取り患者とし家族に説明するが、自宅への引き取りは拒否される。入所からこれまでの血圧は110~150/50~60mmHgであった。

    9月20日から全投薬を中止、輸液などもすべて止める。9月22日、聞き取れないながらも発語あり。9月23日、ベッドに起き上がり、「はい」と返事する。以後の血圧は150~200/50~70mmHg。9月24日、拒絶の意思表示をするようになる。9月25日、娘の名を呼ぶ。食事と水分を少量摂取するようになる。9月27日、立ち上がる。笑顔が見られ、血圧160~200/50~70mmHg。9月28日、室内を歩いて、人を呼んでいる。「腹減った」と言う。10月3日、自分で朝食を摂る。10月4日、歩行器を使い裸足でフロアに出てくる。多弁となる。10月中旬、動きが活発となり転倒を心配する。

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