No.4797 (2016年04月02日発行) P.73
仲野 徹 (大阪大学病理学教授)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-01-26
この季節になると、近所の文房具屋さんで鉛筆の名入れサービスをやっている。昔ながらの古びた機械で、ひらがなの名前が刻まれていく。どれくらい需要があるのか知らないが、なんとなくほほえましい。
文房具フェチなので、筆記具はたくさん持っている。しかし、シャープペンシルや消せるインクのボールペンはごろごろ転がっているのに、黒の鉛筆はオフィスのデスク周りに一本も見当たらない。
最後に鉛筆をダース買いしたのは受験生の時だから、もう40年も前のことになる。大学入試のために、一本100円もするトンボのMONOを買ったのだ。どうして三菱のuniにしなかったのかの記憶はない。削ったばかりの新品の鉛筆を、おまけのプラスチックケースに入れたまま受験に臨んだ。
新品であろうがなかろうが、成績に関係ないのはわかっている。しかし、さらっぴんの高価な鉛筆だと真剣勝負感がしていいかと思ったのである。受験の武器は、この鉛筆12本と、模擬試験を一度しか受けずに温存した自信だけだった。
残り591文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する