筆者は普段千葉県の山武市という医師少数地域で総合診療医として外来,病棟,在宅診療に携わっている。その中で多くの認知症患者の診療に関わる機会があるが,地域の医療リソースから考えて,すべての認知症患者を精神科へ紹介するのは非現実的と感じている。また近年の高齢患者は認知症などの精神疾患だけでなく,内科・外科・整形疾患など,多疾患が併存していることがあたりまえになってきている。現代ではそれら疾患への包括的な視点でのケアが求められ,地域のプライマリ・ケアに従事している先生方にその役割が期待されている。
一方で,認知症診療についての体系的な教育は,卒前・卒後教育は十分と言えず,たとえば内科疾患による認知機能の低下と誤診してしまったり,本来は精神科に紹介すべき困難な認知症患者を無理に抱えてしまったりしている先生方も多いのではないかと推察される。そこで今回,筆者が総合診療医の視点から「認知症患者をプライマリ・ケア医がどこまで診てどこから紹介するのか?」について解説する。
認知症の特徴(特にアルツハイマー型)として,患者自身は認知症である自覚があまりないことが多い。診察室でも本人は認知症ではないように取り繕うため,認知症かどうか一見わかりにくい。そのため,家族などの介護者からの情報が有力になってくる。外来では1人で通院している高齢患者も多いと思われるが,年1回程度は家族とコンタクトを取り,普段の生活で気になることがないか聞き取りしたほうがよい。
また,本人へのアプローチとしては「どうやって病院にいらっしゃっていますか?」と聞くようにしている。もし自分で運転している場合は,事故など運転に不安なことがなかったか,バスなど公共交通機関を利用している場合は,金銭の管理ができているかなどを確認している。
そういったやりとりの中で,少しでもおかしいなと感じたときに「ご年齢のこともあるので一度認知症のテストをしてみませんか?」と促して,スクリーニングにつなげる場合が多い。
上記のような認知症を疑ったタイミングで,最初に簡単に行えるスクリーニングツールとしてMini-Cog(mini-cognitive assessment instrument)がある。Mini-Cogは3語の遅延再生と時計描画を組み合わせたスクリーニング検査である1)。Mini-Cogは2点以下が認知症疑いで感度76~99%,特異度83~93%2)である。
Mini-Cogの具体的な検査方法としては,まずそれぞれ関係性のない3つの単語を伝え,その場で3つ復唱してもらう。その後に11時10分を指す時計を描いてもらう。そして最後に,最初に伝えた3つの言葉を思い出してもらう。3つの単語を思い出せたらそれぞれ1点を与え,時計が描けたら2点を与える。5点満点中2点以下だと認知症の疑いがあるため,精査に進むこととなる(図1)。